波瀾万丈

□萎縮震慄
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フォーク!
フォークが口の中にはいってるから!!!
ケーキを放り込んだ途端に背後から羽交い絞めにされ、あと少しで喉の奥にフォークが突き刺さるところだった。

あああああ危なかった。
死ぬかと思った。
否、
殺されるかと思った!!

一体全体、何なんだ!
何がおこったんだ、チクショウめ!
と振り返りたくとも振り返る事は出来ない。
ぎゅーっと首に腕を回してしがみついてくる相手。
密着度が半端ない。
若干どころではなくめちゃくちゃ苦しい。

「なに、この人」

「弟って呼んでたわね」

そうなの?と人が殺されかけてるというのに暢気にこちらを見つめるだけの女性二人に問われて慌ててぶるぶると首を横へと振った。

あるわけない!
弟とか兄とか、絶対に、ない!
だって、ここ、漫画。
漫画の世界。
そんなとこに両親はおろか兄弟はいない。
いないと信じたい。
うっかり一緒に落ちてきたとかいうオチは勘弁。

きゅーっと縋り付いてくる相手を横目で捉えてから考えてみるけれど、兄なんかでは決してなく、また、顔見知りでもなんでもない。

「なんなん、っすか」

とりあえず離せ。
弟でもなんでもないし離してくれ、と盛大に身を捩った瞬間、―――意識が飛びかけた。

「ちょっと!なにしてんのよ!」

「離しなさい」

「〜〜〜〜〜っ!げっほげほ!!」

闇に落ちかけた意識が急浮上し、物凄い勢いで入り込んでくる空気に盛大に咽た。
喉を摩りながら見渡した先で、『弟』と呼んだ見知らぬ人物はロビンの花のような手によって引き剥がされていた。
ああああああありがとう、ロビン!!
窒息するとこだった!
絞め殺されるとこだった!

「ナナナナナナミさんナミさんナミさん!」

はわわわわ、と震えながら椅子から立ち上がって、縋りつくようにナミの元へと歩を進める。

「いいいいい行こう。もうここから出よう、ていうか、離れよう」

「ちょ、ちょっと、***!落ち着き―――」

「落ち着いてなんてられないっての!」

暢気に座っているナミを引っ張るように立ち上がらせ、捻れるんじゃないかと思うほどに締められた首を摩りながらそう提案する。
引き剥がされてようやく全体像が見えた相手。

じっとこちらを見下ろす相手は豪華な金髪と全てを見通すような静かな瞳、そして凄まじいまでの迫力をもった長身の―――まったくもって初対面な存在。
どう考えたって初対面。
小指の爪の欠片も記憶にございません状態である。

そんな相手に『弟』扱いされ……否、殺されかけた。
弟とか言ってるわりには、なんか行動が伴ってない!
首しめてくるって何なの!
そんなバオイレンスな兄弟関係に巻き込まれたくも、勘違いされたくもない!

ということで、逃げようぜ!
さくっと逃げよう。
なんかもう、マジ、側にいたくないんですけどぉぉぉぉぉ!!!
と半泣きになりながら紙袋を集めて両腕に抱えた瞬間、



「―――行ってしまうのか」



身体中にロビンの手を纏わり着かせた存在が、そう小さく呟いた。
それがまるで、置いていかれてしまう幼子を彷彿させるような声音であったのに、

「ひっ!」

雰囲気はそれをモロに裏切っていた。
おどろおどろしいというか、置いていったらどこまでもどこまでもどこまでも追いかけてきそうな、そういった不気味さ。
風に揺れる長い金の髪がまたおどろおどろしさに拍車をかける。

穏やかな昼下がりのカフェ。
オープンテラスの気持ちのいいこのテーブルだけがまるで恐怖の世界に引きずり込まれたかのように空気が重くなる。

「ナミちゃん……このまま姿を消そうとすれば、避けがたい『問題』にはなるとは思うわ」

そんな男を能力で押さえ付けているロビンからの唐突な言葉にじわりと嫌な汗が背筋へと滲んだ。
恐る恐る隣にいるナミを見つめれば、視線がゆっくりとこちらとあちらを行き交っている。
じっとこちらを凝視する長い金の髪の男の視線に、隣に立つナミが深い深い深い溜息をついた。

「そうね。出来るだけ『問題』の根は残さないようにしましょう」

そう言って椅子に座りなおしてしまったナミが勢い良くこちらを引っ張った。
バランスを崩すようにして椅子に座り込んでしまってから気づく。
問題の男の真正面にいることを。

テーブルがあってもなんか安心できない!
ロビンが押さえてくれててもめっちゃ安心できない。
なんか怖い!
ほんと怖い!!!

ひー、と半泣きになって恥も外聞もなくナミへとすがり付こうとした瞬間に肘で思いっきり突っつかれ、軽く咽た。

「な、なに!」

「あんたがどうにかなさい、あんたが」


!!!!!???
なんですと!?


「無理無理無理!出来ないって!」

「出来ないじゃないの!やるの!だって、これは、どうみてもアレでしょう?」

えええええ、やだやだ、と小さな声で呟けば『やれ』とまるでジャック・バウワーのような強引さでせめてくる。
どうみてもアレ、と含みを持たせたナミの発言を受けて、いやーな感じで眉を潜めた。

だから逃げたかったのに!
一刻も早くこの場から立ち去りたかったのに!
ちょっと危険な人に絡まれちゃったね★弟だって★アハハハハって笑い話にしたかったのに!!

考えたくもないし気づきたくもなかったけれど……首を引きちぎるような勢いで腕を巻きつけ、『弟』と称したおかしな事態に陥った状況での答えはひとつしかないわけで。
絶対に目の前のこの男は―――能力者、だ。
胸がホカホカとかレベルを越えて『弟』を思い起こさせてしまっている、らしい。

ああああああ、いやだ!
なんなんだっての!
悪魔の実の能力者ってそんなに多くなかったはずだよな!?
こんなにもゴロゴロ、犬も歩けば棒に当たるかのように俺歩けば能力者にぶち当たるとか、そんな事になってんじゃねーだろうな!
ガッディム!と神に向かっての罵りを心の中で吐き捨てた瞬間、

「……ぐふ」

わき腹に咽るほどの強さで細い肘がめり込んだ。

「早く」

鬼 か !
お前は鬼なのか!
出来るものならとっくにどうにかしてるっての!
無理だって!と再度主張しようとしたのに……ちょ、ちょっと待って、ナミさん。

あの、
なんか、
若干目がキラキラしているように見えるのは、錯覚!?

この状態でなんで興奮してんのこの子…恐ろしい子、と若干引き気味で見つめていると、サンジが白魚のような手と賞賛する綺麗な手がふゆふゆと不可思議な動きをする。
まるで指の先に操り人形とその糸があるような動き。
なにそれ、と見つめていれば、再度わき腹に細い肘がめり込んだ。




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