波瀾万丈

□同姓同名
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祭だ、わっしょーい!



いよいよお祭当日。
朝も早くから空気が浮ついていた。
街中の空気が。

祭会場から離れている港ですらもなんだかそわそわ空気に包まれていて、早起きした麦わらメンバーが早めの朝食を取り、
ルフィの待ちきれないといわんばかりのウズウズと街から流れてくるどことなく浮ついたふわふわ空気がサニー号に充満し、
影ってよりももう表も裏もまるっと支配者だよねというナミが頷いたのを見て、



祭じゃーーーー!



と飛び出した。
主に船長が。

初っ端に妙な能力者に懐かれたっぽいし、祭とはいえあんま降りたくないなぁ…でも楽しそうだしなぁ…どうしようっかなぁ…誰かについていくにしても選択肢が…ゾロとか今日お外に出るかなぁ…あ、ダメだ奴は方向音痴だ…やっぱ頼りになるのはサンジかアニキだよなぁ…とぼんやりしていると。

腰に違和感が―――と感じた瞬間には世界が変わっていた。

我らが船長の伸びる手が腰に回り引き寄せられ、何の対策も出来ずに船から引き釣り出されたのだと分かった時にはなんだかもう浮かれた街の中だった。
ちょ、おま!なんてことを!?
と見つめた先で、ししし、とあの笑顔で笑われてしまえば渦巻いていた言葉が空気を振るわせることはなかった。

祭、楽しみだな!
なんてなんの含みもない笑顔に、力が抜けたというか。
ルフィがいれば何とかなら……ないな。
まったくもってならないな。

問題が向こうから飛び込んできそうだけど、その時は逃げよう。
そう!逃げるのだ!
あれだけゾロから逃げ回っていたのだから、なんとかなる!
多分!
それにもう降りちゃったし、
サニー号も遠いし、
ぐだぐだ考えてたって仕方がないよな、もうここまで来ちゃったんだもん…、と開き直って。

ぐあっと上がったテンションのままに、お祭会場というか広場まで続く道に並ぶ色々な露天を物珍しさのままきょろきょろしていたのがいけなかったのだと思われる。


「で、どーしてくれんだ、ああ?」
「どう落とし前つけるつもりだって聞いてんだよ!」
「答えろ、おら!」


浮かれきった街はとても楽しかった。
なんだかもういるだけであげあげ気分になれる感じだった。
面白そうな露天やらお店やらを覗いて、
あっちの美味しそう!凄いよ、ちょっと見て―――と振り返った先に麦わら帽子をかぶった青年とか、長い鼻の青年とか、可愛いトナカイ達はいなかった。

どどどどどどどこ行きやがった!!!

大慌てで周囲に視線を流してみたものの、海で出会ったおっちゃんが言ったようにこの島の祭は物凄く『盛大』で。
人、人、人。
道に溢れる人。
露天を覗く人や世間話で立ち止まる人、店の店員達の威勢の良い掛け声や、酒を掲げてご機嫌に乾杯を叫ぶ人に、広場へ向かい歩く人、駆ける人。

大通りはで祭客でごった返し、実に賑やかな雰囲気だった。
そんな人で埋め尽くされるとはこういうときに使うのかもしれない、と思うほどの大通りに顔見知りはいなかった。



―――ガチ迷子である。



マジでか!マジで迷子か!
シャレにならねーぞ!
つか、ゾロの事笑えなくね!?
いやいや、落ち着け。方向分からないわけじゃねーし?
広場行けばいいわけだし?

とちょっぴり焦ったが、お祭会場たる広場に行けば何とかなるかも?と思い直すことまで出来た。
というのも、はぐれたのが特徴ありまくる人物達だったからである。

麦わら帽子をかぶった青年を見ませんでしたか、とか、
尋常ではないくらい鼻の伸びた青年を見ませんでしたか、やら、
タヌキ!?と見間違うような二本足で立つトナカイを見ませんでしたか、など、
一目見たら脳裏に焼きつくであろう特徴を持っているので、お祭会場で聞きまくればなんとか出会えそうだと考え直してテンパる事よりも祭に集中しようと思った。
多分、お祭の浮ついた空気がそうさせたのだと思われる。


「聞いてんのか!」
「ふざけんのもいい加減にしろ!」
「ぶっ殺すぞ!」


人が溢れる空間に、ちょっと熱いなぁ、と冷たい飲み物を求めた。
出来ればノンアルコールで。
けれど探しても探してもアルコール飲料しかなく、諦めかけたところに色とりどりのアイスを持ってはしゃいでいる子どもたちをみた。

お嬢ちゃん、アイス、どこで買ったの?
と現代であれば不審者情報として地域メールが一斉に回ってしまいそうな問いかけにもお祭でワクワクしている子ども達は快くお店の場所を教えてくれた

出来れば飲み物がいいけれど、このさい冷たかったらアイスでも!
街角にあるアイス屋さんに飛び込んで、お祭スペシャルセットを頼んだ。
多分、これもいけなかったのだと思われる。


「なんなんだコイツは!」
「暢気に食ってんじゃねぇよ!」
「もう殺っちまってもいいんじゃねーのか!?」


四段重ねのアイスに気分はひゃっほーうだった。
好きなの選んでいいというので、某31のようにたくさんのアイスの並ぶガラスケースを覗き込んでウキウキワクワクで選んだ。
人のいいおばちゃん店員が、こっちも美味しいよ、やら、こっちの組み合わせは最高だよ、などと言うもんだからかなり悩みながらも決めたアイス達。

太陽の光を浴びてキラキラと光輝く球体に唇を寄せた瞬間、ドンっと背中を押された。
人で溢れている道で、アイスを頬張ろうと歩くスピードを落としてしまったのもいけなかったのだと思われる。

ぽーんっと放物線を描いたピンク色の球体がベチャっという嫌な音をたてて前を歩いている男性の黒いマントへと当たった。
それから、


「殺っちまおうぜ」
「ああ、殺っちまおう」
「ズッタズタにしてやんよ」


という具合に先ほどからずっと絡まれ続けているのだけれど、こちらも必死だ。




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