波瀾万丈

□曖昧模糊
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恐ろしい顔つきのチンピラを引き連れたゾロが目標としている(そう言ったら殺されそうだけれども)世界最強の剣士のマントに運悪くアイスが飛んでしまった。



思いっきり絡まれた。



ちゃんと謝るつもりだったのだけれど、三段アイスが溶け始めてきたので一生懸命頬張っていたらブチ切れられてしまった。



アイスをマントに飛ばしたくらいで斬り殺す気満々な鷹の目に、ちょ、待てよ!と逃げようとしたら見知らぬ人が乱入してきた。



十字架を背負った聖職者―――には絶対に見えないような大層目つきの悪い男。



誰だこいつ?



とばかりな視線が送られる中で、乱入者は鷹の目、ジュラキュール・ミホークさんと同性同名と判明した。



というよりもご本人だった。



その途端、
自称鷹の目とチンピラ三人組は蜘蛛の子を散らすかのごとく逃げ出した。



それをちょっと呆然と見つめた後で、我に返る。
ごった返す人の波の中で取り残されたのは、聖職者でもなんでもない正真正銘のジュラキュール・ミホークさんと―――俺。






最悪である。






逃げのタイミングを計っていたくせに、一番最後に取り残された!
あれぇぇぇぇぇ!!!????
あたふたと慌てた後で、黄金の瞳がこちらを見つめているのに気がついた。

ありがとうございました!とか、助かりました!とか、このご恩は一生忘れません!とか言って逃げ………そそくさと立ち去ればよかったのに!

鋭い視線を避けるようにして俯いた先。
見つけたくないのに見えてしまった黒いマントの汚れ。
というか、あれ、アイスだよな…的な。

手元にあるのは三段。
本来は四段だったけれど、一番上は自称鷹の目さんのマントにいってしまった。

めっさ怒られた。
めっさ絡まれた。

その原因となったアイスだったし、色合いも味も覚えている……から、なんか、ちょっと、似てるような。
いやいやいや、だって俺のは自称鷹の目さんのマントについたんだし!
ついてるはずだし!
だから関係ない。
関係ない、はず。

自称も本物もアイスがマントに着いてるって案外共通点があったりし―――……ちょっと待て。
自称さんがマントばさぁってやったとき、どうなった?

あれ?アイス、どこいった?
にゅーんっという放物線を描いて飛んだのは覚えているんだけど?




…………。




マント拭かせてくださいごめんなさい、と謝り倒して噴水の側に座り込んでマントを拭いているという状況、なう。

「ほ、本当に、ごごごごご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございま、せん」

沈黙が痛い。
というか辛い。
鷹の目ってこれか!このことか!
ああ、この人に鷹の目って通称?あだ名?呼び名?をつけた人、すげーよ!
グッジョブ!
あだ名検定があったら最高位だと思う。
めっちゃ合ってる!

本当に猛禽類に狙われたような気分になるもん!
……しんどいほどに。

鷹の目さんのマントについたアイスは、マントからマントの移動で、自称鷹の目さんがマントを広げなかったらアイスは飛ぶことはなかった。
責めるのであればあの自称鷹の目を責めてもらいたいのだけれども―――そもそものアイスは祭の雰囲気に浮かれてかってしまったスペシャルなわけで。

四段をカップでなくコーンを選んでしまった自分にもちょこっと………ほんのちょこっと責任があるようなないような。
ないと信じているけれど、遥か上空から狙っている鷹のような眼光に晒されたら気分はもう野ねずみである。

それじゃ、と帰れなくね!?
どう考えたって帰れなくね!?

油汗というか、尋常じゃないほどに汗が出て―――土下座する勢いで謝ってアイスのついてしまったコートを拭かせてもらっている。

丁寧に、丁寧に、噴水の水にハンカチを浸してそれで拭き取るという作業を繰り返しているのだけれど。
これ、なんの素材で出来てんの!?

そもそも水に触れても大丈夫だったんだろうか。
アイスの染みが酷くならないうちにと一生懸命拭いてみたけれど………ちょっとばかり毛羽立ってしまった。
しかも甘い匂いとかも取れてなかったりするわけで。

とりあえずバサっと広げてみたはいいものの、再度だらだらと油汗が流れるような心持ちだった。

「べべべべべべ弁償、しますので。ちゃんと弁償します!!!でも、あの、恥ずかしながら一括払いってわけにはいかないんです。すみません!ちょっと貧乏というか、財布の紐を悪魔が握ってまして。
分割で、ちょっとずつ!振込み先っていうか、ここに送れって場所があったら毎月必ず送りますので!!」

ヤのつく職業の方の取立てか、はたまた養育費の滞りを必死に弁解する父親か―――という縋りつき具合であったけれど精一杯の誠意を見せようと頑張った。
のだが、

「いらん」

「え、いや、でも」

広げたマントを取られ、しかもクリーニング代というかマント仕立て代はいらないときてる。
いやいやいや、ちょっと、それは。
助かるけれども。
個人的には助かるけれども、

「それじゃ、俺の気持ちが―――」

「いらんと言っている」

おおおおおおおおっかねー!
気持ちが収まりません、
ちゃんと払います、
と食いつく前に猛禽類の瞳で睨まれピシャっと叩き斬られた。
実際にではなくて言葉だけれども。


去っていく背中を呆然と見つめるしかなかったのである。







曖昧模糊








どっと疲れました。







2012.8.4
 

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