波瀾万丈

□複雑怪奇
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*キャラ出てこないターン




がんばれよー、と応援されて気のいいおっちゃんの、高級そうでありながらも怪しい呪いの剣とかほいほい売りつけられちゃうんだぜ!うっかり買っちゃった人はどうするんだろう…という不思議な店を慌てて飛び出る。

ちょ、鷹の目さん!
忘れ物、忘れ物!

と飛び出してみたはいいものの、目の前の道は祭ではしゃぐ人でごった返しており……鷹の目さんのタの字も見つけられないほどの混雑振りだった。
えええええ、と大慌てで飛び跳ねてあの特徴的な十字架を探してみるものの、どうやっても視界に入ってこない。
マジ、どこいった!
鷹の目、どこいきやがった!
手の中にある十字架どうしたらいいの!?
これ、どうすんのー!!

めっちゃ返したい。
一刻も早く返したい。
だって返さないと、なんか、ほら、盗んでないのに盗んだことになってたら大変だし!
あんな猛禽類の瞳を持った剣豪に追いかけられるとかマジ勘弁。
いらないものを身につけれるような人じゃないだろうし、ついうっかり忘れちゃった★なんておちゃめな人でもないだろうし……おちゃめだったらどうしよう。

それはそれで怖い。
ついさっき出ていったというおっちゃんの言葉を信じて、鷹の目さんだってこの島に来たということは祭目当てだろうし、目指すは広場!
その途中で追いつくかもしれないし、追いつかなかったら広場で聞きまわればなんとかなる―――そう思っていたりもしました。
祭本番ということでごった返す人々の間を交差点で決してぶつからないという日本人の特技を生かしてすり抜け、いい匂いのする屋台を横目で見ながら広場を目指してみれば

「―――無理だ」

人だった。
なんていうか、すげー人だった。
ヒトヒト人。
まさに人。
ここは渋谷のスクランブル交差点ですかというほどにごったがえす人を見ながら、この中で人探しをするのは無理だということをようやく悟る。
どんなに特徴的な格好をしていようとも、一人ひとりに特徴を話しているだけで夜が明ける。

ていうかこれだけ人が溢れていたらいくらひと目見たら忘れない特徴があったとしても見ている人数の方が圧倒的に少ないだろう。
ルフィの処刑台に上ったとかそんな武勇伝を残すくらい目立ってくれなかったら無理だ。
鷹の目さんはそんなことしないだろうし。
してくれたら、とても簡単でいいのだけれど期待するだけ無駄だ。

だはぁ、と重い重い重い溜息を吐き出してぐっと肩を落としてしまった。
盛大な溜息と暗雲を背負うというお祭で沸き立つ周囲とかなりの温度差である。
なんだー、もー、厄日か、今日は!!
とりあえず広場に続く道の真ん中で呆然としているなんて邪魔以外のなにものでもないので、よろよろと端に寄って冷たい壁に背を預けた。
もう溜息しか出てこない。
どれだけの人がこの祭に来てるんだろうか。
はぁ、と再度溜息をもらす。

これからどうしよう。
手の内にある十字架を返すにはどうしたらいいだろうか。
心なしか重くなったような気がしないでも………いやいや、ないない。
気分の問題だ、これ。

広場に続く道が一本なら、この場で待っていれば鷹の目さんが広場から出る時に捕まえることは出来るけれど。
最悪な事にこの島は広場を中心に放射線状に道が作られているので、行きも帰りも同じ道を通るという確率が物凄く低くなってしまうのだ。

あーあ、どうしよう。
返せないまま鷹の目さんや自分がこの島を離れてしまったら……。
おっかない!
想像したくもない!
やっぱここは無理無駄を承知で広場に突っ込んで鷹の目さん捜索をするべきか!最終手段はルフィのように目立つ事してみるか!などと無理矢理自分を奮い立たせ、
いつの間にか足元に落としてしまっていた視線を上げた瞬間、目の前に広がるのは楽しげな人々の笑顔だった。

親子連れに恋人同士に夫婦や友達グループ。
わいわいとそれぞれが楽しげに笑いながら広場へと入っていく。
楽しそうだなぁ、と純粋に羨ましくなってしまった。
祭じゃー!とはりきる船長に文字通りぐるっと絡まれてサニー号を飛び出してしまった後、もしもはぐれなかったら皆と笑顔でこの広場にいた、はずだ。多分。
意外としっかり者のウソップあたりが待ち合わせ場所とかナミと話していそうだし。
なのに俺だけ一人、壁に背を預けて賑やかな人の流れをポツンと一人で見ている。

鷹の目さんもすんなり見つけられそうにもないし、この人ごみだと主人公組に出会える確率も低いなぁ、とちょっとしょんぼりする。
周りが皆楽しげだから、より一層一人が際立ってしまってほんの少し物悲しい気分になってしまった。
先ほどまで慌しくて感じられなかったものが、じわっと忍び寄ってくるというか。
世界でただ一人の気分……というか。

思いっきり迷子な気分だ。
否、実際問題、この世界では『独り』で『迷子』なのだけれど。

こういう時、普段考えないように考えないようにと頭の片隅に押し込めている澱のような感情がじわじわと滲み出てくるのを感じてしまう。
賑やかな場所を離れたところで見つめるなんて状態になってしまっているせいかソレはお構いなしに存在を主張しはじめる。
『お前は独りだ』とそうやって囁きかけてくるのだ。
そもそもこの世界にとって自分はイレギュラーな存在だ。
輝かしい主人公組の乗るサニー号の中にはいない存在。

日常を難なく過ごしていても、ふと感じてしまうのは大げさでも何でもない―――世界からの疎外感だったりする。
一歩引いた場所で、自分の存在すらも無になったかのように、この世界を見つめる立ち居地が正解と感じてしまうような。
実際こんな壁際にぽつんっといる存在など祭に興奮した人々の目には映ってなどいないだろう。

石ころや壁か木々のような、そんな風にどこにあってもさして気に留めることがないものとなっているかもしれない。
それが正しいといえば正しいのだけど。
なんて寂しい俺なのでしょう。

あーあ、嫌だ。
そんな風に感じてしまうのが嫌だ。
というより、帰りたい。
自分の家に。
両親のいるところに。
ワンピースという漫画の世界ではなく、この身が存在していた21世紀の世界に。

帰りたいなぁ、と湧き出る望郷の念に賑やかな人ごみから無理矢理視線を外した瞬間、初めて自分と同じように壁に背を預けてじーっと人並みを見つめている少年がいることに気がついた。

距離としては一人分離れた場所で、通りをキャーキャーと歓声をあげながら走っていく子ども達とぼんやりと見つめている。
いつの間に、というのが正直な感想だったけれど、なんだか楽しげな人々を見つめるその様子に慌てて周囲を見渡してみるものの、母親や父親らしき姿は見当たらない。
祭の熱気に取り残され、壁際に追いやられ、こんなところで自分と同じように死んだ魚のような目をしているとなれば、

「えーっと、もしもし、そこの君?迷子…なのかな?」

この年齢的に一番考えられるのかそれかなぁ、と。
祭でごった返している島中だし、うっかりテンションあがってしまった子どもが母親や父親とはぐれてしまうこともあるだろうという思いで声をかけた。
途端、バっと音がつくような勢いで向かれて、その勢いにびっくりした。
少年の顔に浮かぶのは心底驚いたような表情に慌てて両手を振りながら言葉を重ねる。

「あ、ごめん。急に声かけて。一人だから、えっと、迷子になっちゃったのかなって思って…」

ぼんやりと人並みを見つめる瞳が、ほんのちょっと自分に似ていたというか。
置き去りにされてしまった感じ半端なかったというか。
先ほど自分が迷子の気持ちにどっぷりと浸ってしまったので、こんな小さな子が迷子だったらどんだけ心細いだろう、という気持ちで声をかけてしまったけれど。

「あの?えっと?」

驚きいっぱいの表情のまま無言でガン見してくる少年。
返事はない。
その様子を前にして一気に血が下がるのを感じていた。
怪しい人というか―――少年に変態として認識されたらどうしよう。
現代であれば地域メールで、少年に迷子?と声をかける事例発生とか送られてしまう状態だ。
本当に迷子かどうか心配で、とまったくもってこれっぽっちもやましい気持ちはないんだよ、と言い募ろうとしたところで、

「お兄さん?」

「はい?」

「僕のこと、見える?」

恐る恐るといった感じで問いかけられてしまい、反射的に少年の足元を見つめてしまっていた。
あ、影ある。
び、びびったー。
僕が見えるって何!
恐いんですが!
祭の熱気と微妙に切り離されてしまっている為、なんだか空気までがひんやりと感じてしまってきていた。

「そ、それは、…どういうこと?」

真っ先の問いかけがそれってなんなの?
僕幽霊なんですってこと?
でも影あるし。
ちゃんと少年はくっきりはっきり見えるし。
今度はこちらが恐る恐る問いかければ、少年はにっこりと満面の笑みを浮かべてみせる。

「なんでもない。ちょっと、うん、なんでもなーい」

「は、はぁ」

嬉しそうににこにこ笑う見知らぬ小さな子どもに向かい疑問符を浮かべながら首を傾げてみせれば、何故だか更ににっこりと微笑まれてしまった。
なんだこの状況。

「そ、それで、…その、君は迷子なのかな?」

心細かろうと声をかけたというのに、状況が微妙におかしい。
まずはこれをハッキリさせよう。
話はそれからだ。
鷹の目さんを探して十字架を返すというミッションインポッシブルな状態なので、自分の事でいっぱいいっぱいだったりするのだが本当にこの少年が迷子なのであれば放っておくという選択肢はない。

手の中の十字架が存在を主張するけれど、優先事項としては……迷子の男の子だしなぁ。
で、どうなの?
と更に首を傾げてみせれば、きょとんっと瞳を見開いた少年はこくこくと首を縦にふったのだった。





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