波瀾万丈
□吃驚仰天
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べったべった、べったらべったらべったら、引っ付いてくる能力者達。
あっちこっちから代わる代わる触れられて撫でられて、抱きつかれて。
せっかく美味しそうな夕飯だったのに食った気がしなかった。
疲れた。
本当に疲れた。
だって、展開が目まぐるしすぎて付いていけてない。
平和な島でのんびりやっていたのにいきなり海賊船。
ついていけるわけがない。理解できるわけがない。
ああ、ひとりになりたい。
ひとりでボーっとしたい。
べったりと能力者をひっつけてる状態で肺の底から搾り出すような溜息をついた。
「やつれてるわね」
「そうりゃそうなんじゃねーか?酔っ払いみたいなのくっつけてんだぞ?」
向こうでこそこそと可愛い航海士と長っ鼻が話す声が聞こえるが反応を返すことすら出来なかった。
やつれるわ!
やつれるに決まっとるわ!
こんな濃い連中を―――しかも酔っ払いのように体重をこちらにかけるようにしてべったり引っ付かせて過ごしてみろ。
………生きるって、辛い。
どうしてこんなことに。
なんでこんなことに。
あの甲板で『引っ付かなかったら、別に嫌じゃない、かも?』なんて日本人お得意の曖昧な表現を使っちゃった時点で負け戦なのかもしれない。
でも、でも、ひっつかなかったら、ってちゃんと主張したのに。
なのにこれってどうなんだ。
約束違うくね?
べったりじゃね?
酔っ払いに真面目に付き合っちゃいけないってこと?
つか、なんでこいつら揃いも揃ってベロンベロンなんだよ!
突っ込みたくても突っ込む気力はもうない。
やるせなさに溜息を吐き出す力もなく、遠くを見つめる。
水槽のある船って凄いな、なんて現実逃避をしながらこぽこぽと立ち上っている泡を見つめていると、カタンっと音をたてて扉が開いた。
「……っと、お前らちょい離れろ。あ、ロビンちゃんは俺のとこに。ちゃんと抱きしめてあげるから〜!」
「なんだー、さんじー」
現れたのは金髪のコック。
こちらに向かいひっついている男どもを冷たく一瞥し、ハートを飛ばしながらくるくると回る。
何しに来たんだろうか、と働くことを拒否しかかっている脳みそでぼんやりと見上げれば、
「離れろっていってんだろうが。風呂だ風呂。なんか死にそうになってるからコイツを先に入らせてやれ」
「おー!なら***とはいる!」
「おれも!」
「ではわたくしも!」
「わたしは、むり?だめ」
「ロビンちゅああああん!男と風呂とかだめですよ!…って、お前ら馬鹿言ってんな。風呂くらいは一人にしてやれ」
沸き立つ周囲と苛立つコック。
そのコックから放り投げられたものがばさっと乾いた音をたて手の内に収まって。
思わず首を傾げてしまっていた。
「おら、着替えだ。ヤローの着たもんなんて受け取りたくねぇから返さなくていい」
え?
ええええ?
手の内に来たものと、それを投げた相手を交互に見つめて、これが着替えて風呂に入れ(一人で)と言ってくれているのだとようやく鈍い脳が理解した。
訂正しよう。
あ な た こ そ が 神 だ !
「早くはいって来い」
行け、と後頭部を軽くはたかれるようにして促されてよろよろとソファーを立つ。
一緒に立ち上がろうとする能力者達に蹴りを繰り出しているその姿を見ながら、すみません、ありがとうございます、と頭を下げて『お風呂だ』と小さく呟いた。
能力者以外から突き刺さる可哀想な子を見る目が痛かった。
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