波瀾万丈

□顔面蒼白
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島が見えたぞー!



大はしゃぎする声を聞きながらベッドの中で丸まった。
優秀な航海士であるナミにそれとなーく聞いていたので、今日、この船が島に着くのは分かっていた。
毛布を引き上げて蓑虫のような状態となる。
バーンっと男部屋のドアが開いて、

冒険しよう!

とテンション高めの船長と船医と長っ鼻が飛び込んで来るのも予想済みだった。
毛布の中から手だけを出して、ひらひらと振りながらの『いってらっしゃい』。
なんだ、なんだ、どうしたんだ、一緒に行こう、とぐいぐいと空気読めない船長に毛布を引っ張られても決して離さぬ―――ここで離してなるものかと抵抗した。
ベッドの中で力いっぱい毛布を握って丸くなっていると、一応空気が読めるらしい長っ鼻と優秀な船医のトナカイが具合でも悪いのか、と聞いてきた。

よくぞ聞いてくれた!とばかりに首を横に振る。そう、横に振る。
ここで具合が悪いとは言えない。
言えば船医は残ってしまう。
だから、主張するのはあくまでも『眠気』なのだ。

船に乗ったことがないから、揺れる寝床で熟睡が出来なかった。
島についたら揺れも少なくなるだろうし、探検や冒険よりも寝たい。
物凄く眠い。
だから心配しなくていいよ、チョッパー、と言い連ねて島よりも船にいたいのだと訴えた。

毛布蓑虫でベッドに横になっていたのが良かったのか、寝不足だと主張するこちらを心配してくれたのか、船長だけはぶーと頬を膨らませたが他の二名が引っ張っていってくれて、『おやすみ』の言葉を残して男部屋を出ていった。

一人になって細い息を吐き出す。
ベッドの中で丸くなりながら目を閉じ神経を研ぎ澄ました。

バタバタと冒険隊が真っ先に島へと降りて、少し遅れて船大工とコック、骸骨の買出しチームが。
華やかな笑い声をあげながら女性達が船を下りる音を、身動きひとつせずにベッドの中で聞いていた。
この海賊船は漫画の通りとてもにぎやかだ。
静かになるということがない。
様々な音が飛び出し、笑いに満ちている。
賑やかな船がこんなにも静かになったのは、無理矢理拉致されてから始めてのことだった。

船底に波があたる音を聞きながらゆっくりと身を引き起こす。
きょろきょろと辺りを見渡して、音をたてぬようにベッドから足を下ろした。
細心の注意を払いながら床板を踏む。
男部屋のドアを開けて辺りを見渡して、本当に人気がないのを確認して、ぐっと力強く握りこぶしを作り上げた。




よし、
逃げよう。




その為にこのチャンスを自ら作り上げたのだから!!
やってられっかこんちくしょう、が今の一番の気持ちである。
まったくもって身に覚えがないってのに、悪魔の実の能力が付いてしまったらしいこの身。
ゴムになったり、光になったり、不死鳥になったり、地震が起こせたり……そういった能力だったなら超能力者気分を味わえただろう。
もしかしたらちょっと楽しかったかもしれない。

だがしかし!

食ったのかも分からない実のせいで、この身体は能力者をほいほい寄せる、っぽい。
一滴でも血が流れれば、
かの害虫を捕らえるホイホイよりも強力な威力を発する。
何もしてないってのに、悪魔の実を食べた輩が寄ってくるのだ。
否、引っ付いてくる。
べったべた、べったべた、人の気持ちなど考えずにべったべた―――本当にほいほいになった気分にさせられるほどに。

そんな人生、嫌。
まっぴらごめん!
だから!



【出て行きます。
探さないでください。】




そう書き残し、甲板で高らかな鼾をかいている緑の剣士に気づかれぬように抜き足差し足でサニー号から抜け出した。
甲板ではない硬い大地を思いっきり踏みしめて、

よっしゃー!
自由ー!

ふはははは、と高笑いを響かせて小躍りしながら、
あとは店長の待つあの島までの船が出てるといいなぁ、
無理だったら近くの島までの船でもいいや、
と、船着場で新たな船を探していたのにいきなり腕を掴まれ、そのまま身体が反転した。



倒れる、と思わず身を固めて仰ぎ見たその先に―――、






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