波瀾万丈

□鬼面仏心
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「いたか!?」

「いねぇ!」

「逃がすなよ!」

「アイアイサー!」




というダミ声に、物陰へと隠れて息を潜めぎゅうっと膝を抱くようにして小さく身を折りたたんだ。









島が見えたぞー、のお決まりの台詞の後、サニー号はウキウキワクワクの雰囲気に包まれた。
いくら海賊であろうとも人間。
海の上だけでは生きていけない。

冒険に行こう、とキラキラの瞳で誘ってくれる船長や船医を鬼になった気持ちで引き剥がし、ウソップに助けを求め、船降りない、絶対!と駄々を捏ねた。
なんでだよー、ぶー、と不満たらたらの船長と船医にお土産よろしくと笑顔を。
事情を知る長っ鼻には早くこの子どもらを連れて行けと蹴りを。

冒険隊が何やかんやと言いながらも船を降り、コックと女性陣が買い物にと出て、
そして、今回は珍しくゾロが刀を研ぎたいと船を下りた。

船番として残ったのは船大工であるフランキーと、居候でいて変な能力がついてしまった為にあまり島には下りたくない一般人の俺。

出来るだけ行動範囲は狭いほうがいい。
島をふらふら歩いて問題でも起こったら嫌だ。
だから元の島に帰れるチャンスとか、元の世界に帰れるチャンスがなければ、このサニー号から離れない事が一番安全であるし、
船番というのはある程度戦闘能力がある人物が担うのだという。
皆が島に降りて手薄になっている時に攻め込まれても対処できるように、と。

それなら島に降りるよりもこうやって船に残るほうが問題も起きることはない、と思って船に残ることを選択したし、それに後悔はない。

だって、フランキーはとても楽しかった。
***、来い!と言うから何だろう?手伝いなんて出来ないよ、と寄っていってみれば、そこへ座れと言われる。
大きな声に少し怯えながら船の欄干へと腰掛ければ、いいか―――、から始まった話はどれもこれも面白かった。

この世界に来てから3年という年月が経っていても、基本はあの島だった。
喫茶店での接客業。
仏頂面だったけれど店長は優しかったし、常連さんも皆楽しい人だったが、あの島から出たことがなかったので、フランキーから紡がれる話は驚きの連続だった。
感動もした。
『アニキ!』と慕いたくなる気持ちが分かってしまったというか。

船の欄干に座って話を聞いて、ゴツい手から魔法のように色々な物が作り上げられていくのを見るのは物凄く楽しかったのだ。
そのうちに、喉が渇いたというので、大好物だというコーラを取りにキッチンへと向かったのだが、残念ながら冷蔵庫にも貯蔵庫にもコーラはなかった。

しょんぼりするフランキー。
それを見て胸が痛んだ。

だから、買ってくるよ、とお使いをかって出た。
ちょっとそこまでの気持ちだったし(実際に船着場の近くに飲み物を売っている出店のようなものがあった)、
面白い話をたくさんしてくれたフランキーへのお礼のつもりだった。
スーパーに冷えたやつな、と代金を受け取って(本来ならおごりたいところだけれど、よく考えれば拉致されたので一文無しだった…)、行ってくる、と手を振った



―――までは良かった。



サニー号からそう離れていない場所の出店。
外から見えるガラスケースの中にコーラはあった。
一番大きいサイズ、と手をかけた瞬間、ふと隣の人も同じようにガラスケースに手をかけていた。
あ、やばい。
もしかして並んでた?
割り込みしたかも…、と慌てて小さく謝ってから後退した。
そこで大人しく順番を待とうと思っていたのに、ガラスケースを見つめていたお隣さんはいきなりぐるりとこちらへと向き直った。

そしてじっと見下ろされる。

ごつい身体にごつい顔。
なんだかいかにも『海賊』という風体に(面白い形の髑髏マークを身につけていたし海賊だと思う)少しばかり感動した。
身近な海賊が海賊らしくない主人公達だったり、半裸男だったりしたので、これぞ海のギャング!的な雰囲気のある男を初めて目にしたのでちょっと浮かれていたのかもしれない。

『お前』

と声が頭上から落ちてきて、
え?俺?
いやいや、まさかね、
初対面だしね、
割り込みしちゃっていたら謝ったしね、
とスルーする気満々だったのに、急に手を取られぎゅうっと握られ(あ、デジャヴ)、慌てて見上げた先で、真面目な顔をしくさった強面が、

『昔飼っていた犬に似てるな』

と紡いだ瞬間、その手を思いっきり振り払い―――逃げた。





そうして、冒頭のような状態になっているのである。






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