短編

□波乱万丈主in進撃
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*クロスオーバーものです。
苦手な方はご注意を。











『見下ろされる』という行為は、幼い子どものみにされる行為であると思っていた。
今、まで、は。
大人は大きくて視点があわない、だからしゃがんでくれる―――小さな頃であればそれを当たり前に受け入れていたし、そんなものだと思っていた。
久しぶりだね?とか、大きくなったなぁ!とか。
大人はしゃがみこんでこちらの顔を見ながら優しい言葉をかけてくれるものだ、と。

けれど人は成長する。
一年一年、年を重ねれば大人が膝を折って話しかけてくるという状況は少なくなる。
成長と共に段々と見下ろされるという状況などなくなるはずだというのに。


「ふにゃら〜」

「しっ…!しぃぃぃぃっ!ちょっぱ、しっ!」


腕の中に大人しく納まってくれている船医がなんとも間抜けな声をあげるのを慌てて手の平で塞いで、頭上を見上げる。
そう、頭の上を。
日本人の平均身長はクリアしているであろう自分の、立ち姿の、そのまた上を。
ごくりと息を飲み込んで緊張で固まる身体のまま相手の動向を見守る。
ぱちん、とした動きをしたのは目蓋だ。

瞬き。
一般的にはそういわれるもの。
ぱっちりとした瞳が―――頭上にある大きな瞳、否、瞳達が一斉に瞬きするのを息を飲んで見守った。





ど、どうしてこうなったーーー!!!




まず心の中で叫びたいのはこれだ。
大海原をのんびりと漂う、失礼、進むサニー号の上はお前ら本当に海賊?といいたくなるほどゆったりとした時間が流れていた。
サンジがキッチンで美味しそうな匂いを漂わせ、美女二人組はパラソルの下での優雅な日光浴。
船大工はトンテンカンと何かを作っているし、船長と狙撃手は何やら盛り上がって騒いでいるし、剣士は昼寝、音楽家は船首で優雅にバイオリンを弾いていた。

いつも変わらない穏やかなサニー号。
波を受けて進む中、いつの間にか悪魔の実の能力者となってしまった自分は優秀な船医と共に床に広げられた医学書を覗いていた。
これはああで、こっちはこうで、と嬉々として説明する可愛い船医に、うんうん、と頷いて穏やかな昼下がりを過ごしていたというのに。

普段は見ない医学書に興味を引かれ、これは、と書面に突きつけようとした指と、ページを捲ろうとしたチョッパーの行為が交差した。
運悪く。
ページが捲れるという瞬間に。

チっという軽い音と共に感じたのはかゆみだった。
あ、やばい、これ切った、と反射的に引いた指のその腹に出来たのは赤い一本の筋。
つつつ、とその薄い筋から赤い液体が覗いた瞬間、平和でのどかで穏やかで優雅なサニー号の上にざわりと嫌な波が立ったのを感じた。

慌てて立ち上がり、切ったその指を口に含んで逃げようとつま先に力をいれたところで、
どーんと真正面から船医はその小さな身体を思いっきりぶつけてきた。
というか抱きついてきた。

ふにゃ〜と酔っ払いのような言葉を発し、めろめろ状態だというのに、思いっきり。
反射的にその小さな身体を受け止めてしまい、背後によろける。
船医の勢いを殺しきれず、ととと、と後退した途端に、四方八方から能力者達が迫り来るのが分かった。

あ、と思ったときには既に時遅し。
思いっきりぶつかられ―――多分抱きつきにきたんだろう彼らの勢いを崩した体勢で避ける事もましてや受け止めることなど出来ず、まともにくらってしまった。
ただでさえ後退していた身体が更に揺れて、
腕に抱いたまま船の欄干を越えてしまったのは………うん、覚えてる。


激しい水しぶきと共に抜ける力。
どんどんと沈んでいく身体。
嘘だろ!海に落ちた!やべぇ!助けて、チョッパー!
チョッパーも能力者だった!
あばばばばばば!
と、溺れる恐怖に泳ぎたいのに、海に入ってふにゃふにゃになってしまった身体では腕の中の小さな存在を離さずに抱きしめているしかなかった。

とりあえずゾロが助けてくれるであろうと期待して。
そう、期待していた。
期待していたというのに、身体はどんどんと海の底に向かって沈んでいく。


やばくね?
これ、やばくね?
とパニックになっても脳と身体が切り離されてしまったかのように力は入らない。
ヤバイ。
ガチでやばい。
死ぬ。
泳がなかったら死ぬのに、―――ごぼ、という音をたてて大きな泡が自分の口から漏れて。
ぎゃーーーー!ゾローーーー!!早よ来いやーーーー!!と内心で悲鳴をあげ、助けを求めた瞬間、放り出されたのは草の上だったのである。



どすん、と盛大な音をたてて落ちた先が海の底ではなく、短い草の上。
土の匂いのする大地。
一瞬前までは悪魔の実のせいで、海で思いっきり溺れかけていたというのに。
え?あれ?なに?
ここ?
どこ?
と頭の上に派手にクエスチョンマークと飛ばしながら咳き込んだ。
喉に奥にまで入り込んでしまった海水を咳き込む事で追い出して。
ああ、やっぱり海だよな。
海で溺れたよな、なんて再確認してしまった。


海―――だったはずなのに、草の大地。


もしやワンピースって某シブリのナウ◎カのように突き抜けてみれば綺麗な空気のある世界でした、とかいうオチじゃねぇだろうな。
草が生えてるってなんなの!
海じゃなくて大地ってどういうことなの!
まさか天国!?
えええええ、と慌ててあたりを見渡したら、だだっ広い野原で。
途方に暮れた―――で終わればよかった。

いや、終わったらダメなんだけど、それでも地響きを生み出している巨大な存在が駆け足でこちらに向かってきていることに気づいた時の絶望をどう表現したらいいだろう。
どっしんどっしんとした足音と共に草の覆い茂る濃い土に匂いの大地を走る何か。

全裸の、何か。

本能的な恐怖に慌てて立ち上がり、溺れることによってほぼレッドゾーンに突入している体力を搾り出して逃げた。
逃げなきゃいけないと思った。
ゾロの教え通り、逃げることに集中しなきゃって、そう思って全力を出したというのに!

巨大な、人間。

全裸の人間、に見える何かに一瞬のうちに追いつかれるのは当たり前であった。
だって、普通サイズの人間の一歩と、巨大な全裸の人間の一歩は物凄く違うもの!
ドシーンという地響きと共に目の前に巨大な足が現れ、
ぎゃーーーーーー!!
と悲鳴をあげて船医をぎゅうぎゅうに抱きしめて硬直したのは、多分、数十分前だ。

そう、数十分前なのである。

巨大な、人間のような、何か。
もしもこれが普通の人間サイズであるのなら自分達は小人サイズまで縮んじゃったってこと!?と恐怖したけれど、どう考えてもこっちのほうが巨大すぎる。
しかも全裸。
マジ全裸。
海を突き抜けたら全裸な巨大な人間がいるってどんな悪夢!
ここが天国とか言わないでくれよ、マジで!

絶望にぶるぶると震え、しゃがみ込んでこちらを見つめる存在に視線を流していたら―――増えた!
そうなんだよ!
増えたんだよ!
いつの間にか、ぐるっと!
周囲に全裸の巨大な人間のような何かが何対も!何人も!
しゃがみ込んでこっちみてんの!!
にこにこ笑顔で。

こ、こわああああああい!
怖すぎる!

だって、なんだか、その笑みが―――能力者を彷彿とさせるんだもの!
サイズ的にべったりとくっ付いてはこないけれど、べったりとくっつかれているような気分になる、笑顔というか!
これを絶望の状況といわずにどれを絶望とすれいいのか分からないんだけど!!




というこれ以上ない絶望MAXな状況で冒頭へと戻る。




巨大な人間が膝を折るようにしてしゃがみ込み、見下ろしてくる恐怖というのは半端ない。
しかも相手がにこにこ顔というのも怖くてたまらない。
もしや虫のように観察されているんだろうか。
それがしっくりきてしまうのが嫌だ。
だって、なんか、蟻の行列を観察している小学生のような体勢だもの。
プチっと…やられちゃったりして。
小学生男子って意外と昆虫に対してはアグレッシブというか残酷だよね。
持ち上げられてしまったら『死』を覚悟するしかない。

誰か!
誰か、マジ、助けてください!
神様!!

あわあわあわ、と唇を揺らして、ぐるっと取り囲むようにしてこちらを覗き込んでくる巨大な人間を前に神に祈りを捧げた瞬間だった。

パシュ、と空気を切り裂くような音とと共に、覗き込んでくる巨大な人間の頭の上を小さな影が横切った。
一瞬の事であったので、見間違いか、それか鳥でも飛んだのかと思ったのだけれど。
ブシャァァァと、フ◎ッシーの梨汁のような音をたてて落ちてきたのは、赤い液体だった。
その、生臭い赤い液体を、バケツの水をそのままぶっかけられたかのように思いっきり浴びてしまい目が点になる。


…………ん?
今、何が起きてる?


こちらを一心に覗き込んでくる巨大な人間の頭の上を、ひゅんひゅんと飛び交っているのは何だろう。
なんか、人のように見えるのだけれど、あまりにも動きが早くて『人だ!』と断定するには不安がある。
でもってその飛び交っている影が巨大な人間のような何かの首のあたりを通り過ぎる度に生臭く赤い液体が降り注いでくるのだけれど、

「あっつ!あっつううううううう!」

しかも熱いときた!
生臭い赤い液体、しゅうしゅうと音をたてて蒸発し始めたのだけれど、それがまた熱い!

「なんだこれ!気持ち悪い!ちょ、チョッパー!正気に戻って!マジでやばい!火傷してんじゃねぇの、これ!ていうか赤まみれで笑ってるチョッパーが怖い!」

腕の中で幸せそうに笑うチョッパーに背筋が震える。
巨大な人間のような何かは恐怖の対象でしかない中で、唯一の味方というか確かなものはこの小さな船医だ。
というのに!
べろんべろん!
まだ血が止まらないのか、指先の傷!

「チョッパー!マジでしっかりして!正気に戻って!」

どうしたらいいの!
シュウシュウ、ジュウジュウと周囲が盛大な蒸気を上げ始める中で慌てふためき、ゾロの言いつけ通り一目散に逃げなかったのがいけなかったのか。
白い蒸気を切り裂くようにして現れた、自分と同じサイズの………いや、若干小さめの目つきがすこぶる悪い『人間』らしい存在から


「おい、貴様。ここで、なにしてやがる」


鼻先数センチの場所に刀を突きつけられ、睨まれ、一人震えあがった。
半端なく目つきが悪い。
悪いってもんじゃないってくらい悪いので、突きつけられた刀よりも突き刺さるような勢いでこちらを睨む目の方が怖かった。
ビリビリと空気を震わせているように感じられるのは、殺気というものだろうか。

やばい。
やばい。
本気だ。

この人、なんでか良く分からないけれど、殺る気満々だ。
海で溺れて気づけば草の覆い茂る大地で、巨大な全裸の人間のようなものににこにこ笑顔で覗かれて、生臭い液体をかぶった途端、これ。
なにしてるって聞かれても、何も答えを持っていないから尚更、『死』が自分の身に纏わりついているように感じてならない!
やっべぇぇぇ、と背筋を這い上がる恐怖にぎゅうっと小さな船医を抱く腕に力を入れた瞬間、


「だーめ!だめだめ!だめだよリヴァイそんな無粋なものを向けちゃだめだよ、ねぇ、どうやったのか教えてくれるかなさっきのどうやったんだい?ずっと巨人と見つめたっていただろう!食べられもせずに!ああああ、なんてことだ!あんなにも周囲に巨人がいてその中でみつめあうだなんてどうやったんだろう!夢のようだよねぇ!ねぇねぇさぁさぁ教えておく―――ぎゃふ!」

「ひぃ!」



殴った。
いきなり出てきて鼻息も荒くこちらに詰め寄ってきた、女性にも男性にも見える良くわからない存在を、目つきのすこぶる悪いチビ…失礼、小さな男性が殴った!
容赦なく!
思いっきり!
あわ、あわわわわ、と唇を震わせるのは困惑と恐怖である。

なんだ、これ。
なんなんだ、これ。
一体全体、
自分は、
どんな状況に置かれているんだろうか。

ゆっくりと頬に伸ばした指先に力を入れる。
訝しげにこちらを見つめる瞳達の前で、ぎゅっと頬を抓りあげた先にある痛みと共に絶望を噛み締める。





ああ、もう、
泣いていいかな。
泣いていいよね。






孤立無援










in進撃。
悪魔の実能力者ほいほいが進撃では巨人ほいほい(笑)。
趣味で調査兵団出してしまいましたが、捕まった後のことを考えると調査兵団はNGだと思います。
絶対に捕まっちゃならん存在です。恐ろしい。
エレンよりもややこしい裁判沙汰になりそう(笑)。



2013.08.19 日記
2014.10.10 再UP
 

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