NO WHERE.

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「***!どこだい!」




寒々しい城内に響き渡った声にギクリと肩が大きく跳ね上がる。

「さ、最上階、です。ちょっとスノーバードの世話……ごほ…えー、雪が吹き込んできてもの凄いことになってるので雪かき中ですがっ!おやつにはまだ早いですよ!」

あぶない。
あやうく掃除自体を思いっきりさぼってる事を言ってしまうところだった
***!***!やばいぞ、大変だ!と興奮気味に飛び込んできたチョッパーと共に最上階へと駆けつけてみれば、扉とは違う雪鳥の巣があった。

可愛い家族がもうひとつ保護対象として加わった瞬間だった。
ピヨピヨと鳴く雛はチョコボを卵から孵した時を蘇らせる。
かわいい、とチョッパーが引き気味になるほどに盛大にニタニタした。
ニタニタしまくった。

それほど、可愛い。
そして小さくも懸命に生命を繋ごうとしている生き物。
とりあえず、この可愛い雛達が無事に巣立ちをするまでは見守ろうとちょこちょこいらぬお世話をしていたりするのだが、最上階も扉の上でも親鳥が怒ってこないので良しとしている。

今日も今日とて足を踏み入れた途端ピーピーと口を開いた雛達を前にデレデレと巣を覗いていたところへ響き渡った声。
チョッパーではないドクトリーヌの声に慌てて廊下へと飛び出し、抜きぬけの手すりを覗き込むようにして階下へ顔を出した。

「そんなとこにいたのかい。まぁ、いい。リハビリがてら街に買い物に行ってきな」

一階近くと最上階ではかなりの距離がある為に城中に響き渡ったドクトリーヌの声が反響する。
だからというわけではないけれど、一瞬なにを言われているのか分からなかった。

街?

買い物?




……………。



街!?
ようやく理解したところで驚きの声をあげる。

「買い、出し!?街!?」

「リストは作ってあるよ。ついでにあんたの服も見てきな」

「え!?」

街が……。
あるのか!?
ここに?
否、この近くに!?
行ける距離に!?
驚き戦くこちらなど気にする事もなくドクトリーヌは続ける。

「そんなぶかぶかの服ばかりじゃみすぼらしいだけだよ。ヒッヒッヒ、せっかくいい男なんだからおしゃれしてアタシを楽しませな」

リストと金はチョッパーに預けたよ、と言いたいことだけを言い切って室内へと消えた相手に呆然とする。

「……街……」

冗談じゃなくて本気の買出しなのか、と。
驚きとその衝撃でふらつく身体を引きずるようにして最上階から出る。
自室へと向かいながら、そっと自身の身体を見下ろした。

ドクトリーヌの言うようにこの格好は不恰好といえば不恰好だ。
絶対安静中は薄い寝巻きのようなものを身に纏っていたが、動けるようになった身では寝巻きではいられない。
借りるにしてもドクトリーヌの服は性別的に入る気がしな……いや、仮に入ったとしてもあれを身に着ける勇気はない。
チョッパーは上半身毛皮なので除外だ。

倒れていた時に着ていた服しかないのは不便だろうと、城中を駆けずり回ったチョッパーが集めてきてくれた服は大小さまざまだった。
誰かに見せるものでもない。
やる事といえば炊事掃除洗濯ばかり。
真っ裸でなければいいと適当に身につけていたが……。

着ている白いシャツの胸元をぐいっとひっぱってみる。
ふむ。
確かにサイズはでかい。
不恰好ともいえる。
個人的にはこれでもいいと思うんだが。

金がないなら働いて返せとは言われたが、ここは雪に包まれた城は閉じられた世界だった。
毎日が同じことの繰り返しで、ゆったりと過ぎ去る時間は外界から完全に遮断された気分となる。
新聞は取ってないのかと聞けば、誰がここまで届けてくれるんだいと返されてしまった。

確かに、5000メートルはある山頂は雪深く、凶暴なウサギが闊歩しているような場所に新聞を届けようという勇者はいないだろう。
不自由はないのだろうか、と問えば、別にと返された。

情報が入ってこないということは、情報も出ていかないということ。
外界に接触することも、向こうから接触されることもない山頂の城にいれば神羅に見つかることもないが、こちらが情報を得ることも出来ない。
だからこそ、何事もなく過ごせたが。
出ていく時のことも考えて一度ちゃんと『街』を見るのは―――本当に街があるのならば、いい機会なのかもしれない。

「よし」

そうと決まれば準備だ。
クローゼットへと歩み寄って扉を開く。
着ていたシャツを脱いで神羅から支給されていたシャツへと腕を通す。
乾いた血でガビガビになっていたり正宗が刺さった切り口があったりと散々な状態だったけれど、綺麗に洗濯し縫い付ければ、傍目からでは布地が裂けていたとは見分けられないまでにはなった……ように見える。
どうにか着られるようになった服と共にあるのは厚手の黒コート。
コートを羽織る前に少しだけ考えてから、両腰に剣を引っさげた。

太ももから膝までピッタリと沿うようにして作られた皮の鞘入れには両刃の剣が収納されている。
一般的な刀のように柄を持つものではなく、側面にあるグリップを握り回転させるように攻撃を加える。
使い方はトンファーのような格好ではあるが、立派な鋭利な刃が両側面についてたそれ。
攻撃だけでなく防御に用いることも出来るお気に入り腰へと下げてから―――考える。

クローゼットに残っているのは長刀。
足首近くまであるコートはほぼ全身を覆ってくれている。
前をはだけていても太ももから膝までピッタリと沿う鞘入れにある剣は見えないだろうし、下がっているようにも到底見えない。

しかし、この長刀は違う。
トンファーもどきがあるので腰に下げることは出来ない。
背に背負うタイプの仕込み刀は攻撃面のみに特化していて使いやすいが、

「目立つ、な」

こんなものを背負っていれば、自ら『ソルジャー』であると身分を言いふらしているようなものになってしまう。
襲われた時に一気に大量の敵を跳ね除けるには便利だが、見つからずに偵察だけをしたい今回のような時にはまさに諸刃の剣だ。
うむ、と考えてから長刀は手放しクローゼットへとしまいこむ。
その代わりにグローブを取り出した。
甲にある金属部分に同じように属性と攻撃のマテリアを嵌め込んだところで出たのは溜息だった。

「回復系がないのがこれほど心細いとは思わなかった」

ゆっくりと指先で確かめるようにグローブの金属部分を撫でる。
キラリと光るのは育て上げたマテリアで、手元にあるのはほぼ全て攻撃に特化したものだ。
そんじょそこらのソルジャーには負ける気はしないが、味方のいない状況下で回復できないのは厳しい。
回復アイテムも使い切ってしまっている現在、本当に身ひとつで戦わなければいけないのだ。

「***〜!」

響き渡ったチョッパーの声にはっと我に返ってコートを羽織る。


「今、行く!」


慌てて金ボタンを留めながら石造りの廊下を駆け抜けた。





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