NO WHERE.

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「確かに街だ」



窓からかすかに漏れる光と、ざわざわとした人の気配。
外に出ている人数は少ないがそれでもあの城の近くではドクトリーヌとチョッパー、凶暴なウサギくらいにしか出会ったことがないので雑多な人の気配というのは久しぶりだった。

ぐっとフードを引き寄せて目元近くまですっぽりとかぶる。
深く被りこんだフードの下で思わず小さな舌打ちが漏れた。

こんなにも人がいる『街』ならばドクトリーヌからサングラスを借りてくるんだった、と。
うっかりしていた。
5000メートル級の雪深い山の近場にこんなにも数多くの人が存在しているとは予想外だった。
街というには名ばかりの小さな集落を想像していたというのに。
自分の身がどういう扱いになっているのかいまだによく分からない中で歩き回るのは危険としか言いようがない。
英雄に歯向かった時点で、ニルブヘイムの惨劇の犯人とされた手配書が回っていないとも限らない。
辺りを見渡しても神羅マークがないことにとりあえず安堵の息をつきながらも気を引き締める。

ソルジャーと一般人を見分けるのはとてつもなく簡単だ。
ただ顔を見ればいい。
正確には『瞳』だが。
ソルジャーになる際に浴びる『魔晄』が瞳の色を変える。
仕組みは分からないが、元がどんな色合いをしていようとも蒼く透明な人工的な色合いの瞳へと変化する。
まるで魔晄そのものの色が溶け込んだかのように。

だから、まずソルジャーを前にして視線がいくのは大概が『瞳』だ。

フードをさらに引き寄せて、この雪深さに初めて感謝を捧げた。
なるべくうつむき気味に食料から日用品に事細かく分かれたリストにある品物を手早く揃える事に専念することにする。
それが一番いい。
人に会わずに済ますことは出来ないが、接する回数や時間を少なくすることに越したことはない。

とりあえずと広場から見渡した看板を見上げ、不安になりながらくぐった店内はほっとするほど暖かだった。

「いらっしゃい」

カウンターに座る店主らしき老人の柔らかな声がかかる。
小さな街の雑貨店らしく色々な物が所狭しと置かれているので物珍しさにきょろきょろと忙しなく視線を動かした。

「申し訳ない。このリストにあるものが欲しいのだが」

「どれどれ」

この中を探してもまったくさっぱり分からないと踏んで紙切れを見せれば、胸元に下げた眼鏡を引き上げた老人がふむふむと言いながらリストを確認し、店の奥へと進んでいく。
付いていこうか一瞬迷い、店の入り口と裏口に通じていそうな戸口の位置を確認して。
もしもの事を考えてどちらにも近いカウンターの傍へ陣取ることにした。
何気なさを装って棚と、入り口の窓から外と内を交互に眺める。

「これで全部だよ」

「ありがとうございます」

しばらくすると両手に品物を抱えた店主がカウンターへと戻ってくる。
店の奥に一度視線を流してから、言われたまま『ベリーという単位の金』を払い全部入れてもらった紙袋を持ち上げた。
そして、あ、と。
今、気づいたかのように声をあげる。

「店主、ポーションは置いてありますか」

「………なんだって?……ぽー、しょん?」

外した眼鏡を拭いていた店主が不思議そうな声をあげる。
きょとんっと見開かれた瞳に嘘はない。
『初めて聞いた』という態度を受けて、口元に苦笑を刻みながら緩く首を振った。

「いえ、勘違いでした。服屋は、どのあたりになりますか」

「男性用?女性用?」

「男性用で」

どうしてそこで女性用と聞かれるのかとかすかに眉間に皺を寄せながら尋ねれば、

「二軒お隣がそうだよ」

「ありがとうございます」

両手に紙袋を持っていたので店主に扉を開けてもらい、教えてもらった二軒先の服屋でも同じように扉を開けてもらう。
目に付いた無難な服を数点購入し、

「ありがとうございましたー!」

気持ちよく送り出してくれる明るい声を背中に聞けば、ドクトリーヌの言いつけ分の買い物は終了した。



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