NO WHERE.

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自分が別の世界から来てしまったのだと分かっても、基本の生活は変わらない。
本格的な小間使いという身分を貰ってもやることは同じなので、いつもの通り炊事掃除洗濯を中心とした時間割となる。

「ただいま、チョッパー」

コートに積もってしまった雪をバタバタと払いのけながら城内へと続く扉を開ければ、

「***、またラパーンのとこに行ってたのか」

あきれたような声音に迎えられる。
日課となっている散歩。
散歩というよりも肉食ウサギどもとの手合わせと言った方がいいかもしれない。

ふらふらと―――元の世界ではあまり味わうことのなかった自然と雪と空気の冷たさを味わいながら歩いていれば、どことなく巨大なウザキどもが姿を現すのが常となった。

「アイツらはこの国で一番凶暴なんだぞ」

「知ってる。でも面白いな。ウサギなのに凶暴で肉食」

仕掛けてくる攻撃は的確で無駄がない。
その上、動きが素早くて不規則なので、囲まれて突然横や後ろから襲われる事が多々あった。
まともに食らえば吹き飛ぶどころの話ではないので避けるか反撃するかだが、跳躍力を武器にしているあの巨体は身体に似合わず本当にすばしっこい。

個別の攻撃も、群れとしての攻撃もきちんと連携が取れているので、本能に従うことの多い動物の中ではかなり知能が高いのだろう。
この散歩と称した手合わせを繰り返すうちに、ウサギ達は経験から『学習』をし始めた。
新しい行動や攻撃を受ける度に背筋を這い上がるのはゾクゾクとした高揚感。

面白い。
この世界の生き物は、本当に面白い。

「そして可愛いな」

そう締めくくれば、驚いたように呆れたように見開かれた黒い瞳が見上げてくる。

「でも、一番可愛いのはチョッパーだけど」

「………か、可愛くなんて、ねーぞコノヤロー!」

くねくねと身体をくねらせるその姿に笑う。
ピンクの帽子へとポンっと手を置いて、石造りの廊下を進もうと促しながら歩く。
カツカツとした蹄の音を聞きながら、ふと思いだしたこと。

「あ、今日はウザギのシチューだ」

「!!!!???」

コートの内側にしまいこんでいたものを取り出し見せようとして、隣を歩く小さな姿がないことに気がついた。
振り返れば、先ほどラパーンを可愛いと称した時よりも驚きを強くしたチョッパーが瞳を見開き、歩みを止めてこちらを凝視している。
身体全体で驚愕を表すその姿に一瞬だけ首を傾げてから、その驚きの原因が思い当たり慌てて首を横振った。

「違う違う、ラパーンじゃない。雪ウサギだ。思いっきり蹴り飛ばしたらラパーンごとモミの木が倒れてしまって。そこに運悪く雪ウサギがいたらしい。
駆け寄った時には儚くなってしまわれたので………とりあえず毛皮も肉もきっちり使ってやろうかと」

くたりとした雪ウサギを前にどうしようかと立ちすくんでいると、肉食のはずのラパーンがすっと身を引いた。
雪ウサギを譲ってくれたのだと気づいた時には巨大なウサギ達はこちらに背中を見せて去っていくところで。
同じウサギとして共食いはしないということなのか、それとも雪ウサギを仕留めたのは自分だと認められたのかは分からないが、フレッシュな肉が入ったのは喜ばしいことだった。

「そ、そうか」

「この大きさだと焼いて食うには心もとないし。シチューで」

「お、おう!」

驚きが去ったのかようやく歩みよって来てくれたチョッパーに笑えば、引きつったような笑みが返される。

「今、食うならラパーンがいいって思った?」

「おっ思ってない!絶対に思わないぞ!」

「あの大きさだと一匹でかなりの肉が取れるだろうと思って最初は食ってやろうと狙っていたんだが……。こうも毎日バトルに付き合ってもらっていると愛着がわいてしまって、食う目線にいかないな」

「だから、食いたいって思ってなんかないって!」

ぶうっと膨れたチョッパーを笑いながら担ぎ上げる。
驚きの声を漏らす小さな存在をにんまりと見下ろして。

「やっぱ今夜はウサギではなくトナカイ肉入りのシチューにするか。食い応えもありそうだ」

「!!!!???わぁぁあああ!」

小さな身体を素早く抱き上げて拘束する。
ヤメロー、とバタバタ暴れる身体を落とさぬように駆け出して、キッチンへと飛び込んだのだった。




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