NO WHERE.

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『チョッパー、買出しに行くよ!ついでに診察だ!』



思い立ったが吉日、とばかりに。
女王様ならぬドクトリーヌ様がそう宣言し、朝からチョッパーと共にバタバタと『診察』の用意に走り回ってどうにかこうにか送り出した。

買出しなら行くけれど、と声をかけてみたが、ドクトリーヌしか医者のいないこの島では山頂に登ってこれる患者は少ない。否、いない。
それも当たり前で。
5000メートル級の雪深い山に怪我人や病人が向かうだけで自殺行為となる。

そういう事情を含めてか、それとも単に単調な生活に刺激を求めてか、ドクトリーヌイは時たまこの山を降りて診察をするのだ―――と準備に走り回っている際にチョッパーから聞いた。



弟子や小間使いを走りまわさせ準備を整えたドクトリーヌとチョッパーを見送ったのが二時間前。



いつもよりもしんっと静まり返った城の中。
その暖かい暖炉の前で紅茶と共に幸せなひと時を過ごしている。
今日はドクトリーヌがいない―――ということは、その間は思う存分息抜きが出来るということで。

毎日繰り返される炊事掃除洗濯はコツを掴んだ身では、苦ではなくなってきているけれど、やはり休みというものは欲しい。
誰もいない城の中で雪が落ちる音と薪が暖炉で爆ぜる音を聞きながらチョッパーに借りた本を捲る。

このグランドラインの事が詳しく書いてある本の内容は元の世界と比べるとファンタジーのような内容に近く面白い。これが実際に起きるというのだからこの世界は凄いとしか言いようがない。
わくわくする気持ちを抑えきれずに次のページへと進もうとした瞬間、

ドドドドドド

鈍い音と振動に城が揺れた。
山頂にあるこの城は大きく強固で多少の事で揺れることはない。
伝わる振動を訝しみソファから立ち上がり窓辺へと近づいた。

窓から見えるのは針葉樹の森とその奥に立ち上る―――煙?
振動と立ち上る雪煙。
尋常ではないその音と光景に眉根を寄せる。
考えられることはひとつ。

「雪崩?」

しかも規模が大きい。
針葉樹の奥にいるのはあの凶暴なウサギ達だ。
賢い彼らが雪崩に巻き込まれるとは思えないが、どんなに知能が高くとも自然には勝てない。
手にしていたままの本にしおりを挟み込み、ソファにかけたままのコートを引っ掴んで温まった部屋を出る。
そのまま廊下を歩き続け、城外へと出る扉へと辿りついた途端、

「***!」

「なんだい、出迎えかい?」

ソリを引いていたチョッパーとドクトリーヌの姿にパチパチとした瞬きを繰り返してしまった。
診察も含んだ下山だと聞いていたのでもう少し時間がかかるものだと思っていたが。
そんなに具合の悪い人間がいなかったのかもしれない。
それは喜ばしいことなのだが。

「おかえりなさい。出迎えってわけではないんですが。先ほど雪崩があったようで」

「ああ、なんだか物凄い音がしていたね」

「少し心配なので見てこようかと」

視線を流す先は針葉樹の立ち並ぶ森。
それを追うようにしてドクトリーヌの視線が動く。

「心配?」

「ええ、あの辺りには――」

「アンタ…あのラパーン相手に何言ってんだい」

呆れ返った声音だけでドクトリーヌの言いたい事が分かる。
あれだけ知能が高く凶暴なウサギなので雪崩になんぞ巻き込まれないと思うだろう。
そう思ってはいても、やはり落ち着かない。
城が揺れるほどの規模が大きい雪崩を初めてみたからだ。

「一応、可愛いウサギなんで」

「あれが可愛いってタマかい」

はぁという溜め息と、手におし、と呆れた一言を残し城へと入っていくドクトリーヌの背中を見送ってから雪の中へと足を下ろした瞬間、

「***!おれも行くぞ!」

かかった声にソリをつけたままこちらを見つめてくるトナカイへと視線を流した。

「いや、チョッパーは街まで行って疲れただろう?中に入って休んだほうがいい。暖かい紅茶があるから」

「大丈夫だ!おれも……心配だし」

行く、と蹄をぎゅっと握りこんでの訴えに傍らの存在に振り返るようにすれば、城内を歩き続ける存在からは更に呆れたような溜息と共にひらりと右手が振られる。
それが、好きにおし、という返答なのだと受け取って軽く頷いた。
医者が一緒なら心強い。

「なら、待ってる。ソリ片付けておいで」

「おう!」



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