NO WHERE.

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肉。
捌く。



などといった不吉な言葉を残し、重傷者だったはずの二人が飛び出していった後を慌てて追いかけた先はウィルスにやられた女性が運び込まれた部屋で。

「チョッパー!」

駆け込んだ先に可愛いトナカイはおらず、何故か石の床にめりこんでいたのは先ほど飛び出していった二人だった。
ぐるりと見渡した部屋の中では驚いた表情の若い女性と呆れ顔のドクトリーヌが見える。

「これ…」

「チョッパーだよ。とりあえず引き抜いてそこらへんに転がしておきな」

くいっと顎をしゃくられてとりあえず意識を飛ばしてしまっている二人を床から引き抜いた。
転がしておけという言葉通り、引き抜いたあとはそのまま床へと落とす。
ガツンだのドコンだのという痛そうな音が響いたが、チョッパーを肉扱いした罰だと思ってもらいたい。

「それで、ドク、チョッパーは?」

「食われそうになって逃げてったがまだ無事だよ」

「……まだって事はそのうち食われそうな言い様ですね」

苦く笑いながらベッドから静かにこちらを見つめる少女ににこりと笑う。

「こんにちは。起きられるくらいになって良かったですね」

「え、あ、……ええ、ありがとう」

運び込まれた時、あの黒衣の青年とこの少女は意識がなかった。
青年よりも少女の方が病状は深刻でドクトリーヌが付きっ切りだったので顔を見たのは二度目だ。
ぱちくりと忙しない瞬きをする仕草が幼くて可愛らしい。
にこり、ともう一度笑みを浮かべてから、優雅に長い足を組んでいるドクトリーヌへと向き直った。

「ドク、チョッパーもラパーンも心配なので少し外に行ってこようかと思うんですが」

「勝手におし」

興味なさげにひらりと手が振られるのを見て、そのまま踵を返す。
廊下に出て吹き抜けを覗き込みながら、とりあえずあの大規模な雪崩があってから様子の分からないラパーンから先に訪ねることにする。

ひょいっと手すりを乗り越えて吹き抜けを落ちる。
これをやるとチョッパーにはかなり叱られるのだけれど、この大きな城で一気に一階まで辿り着くには一番早く確実な方法だ。
出来るだけ音を立てずに着地してから、声だけは城内に聞こえるようにと張り上げる。

「チョッパー!ラパーンを見に行ってくる!」

チョッパーは優秀な医者だ。
食われそうになって殴り飛ばしたとはいえ、患者を残して遠くに行くはずがない。城の中か、出たとしてもこの周辺だろう。
ドクトリーヌにも行き先を一応は伝えてあるので、無断外出ではないはず。
扉を開けた途端、音をたてて吹き付けてくる雪風は強烈だった。
さすがに今回はコートのボタンを留めた方がいいだろうか、いやでも留めると腰に下げた両刃が取り出し難い。
ううむ、と唸りながら扉を閉めた瞬間、

「***」

「おっと」

かけられた声に視線を流せば、扉のすぐ近くの壁に背を預けるようにして立っている小さな姿が見えた。
患者を放り出して遠くにいかないと思っていたが、こんな所に隠れているなんて。
寒いから中へ、と言い出しかけて、

「また横着して飛び降りたな」

じとっと睨まれて思わず視線が逃げた。

「………いや、まぁ、……階段を使う時よりも早いだろう?」

「けど、あんな高いところから飛び降りて着地に失敗したら、捻挫や打撲くらいじゃすまないんだぞ?アキレス腱断絶や靭帯損傷や、骨折したらどうするんだ」

「でもあれくらいの高さは大した事な……」

「階段!」

「はい」

ごめん、とピリピリしているチョッパー謝る形となった。
流石に自分の患者達に初対面で『肉』扱いされればいくら温和なチョッパーとはいえ腹も立つに違いない。
むっとした表情を隠しもせずに壁に背を預けて足元の雪を蹴飛ばしている。

ピンクの帽子に積った雪を払いのけてからぐりぐりと手のひらを押し付けるようにして撫でれば、黒い瞳がこちらへと据えられた。
見上げてくる黒い瞳の前。
ゆっくりと右手を差し出してみせる。

「ウサギを見てくるつもりだけど、チョッパーも一緒に行くか?」

一瞬小さな蹄がゆるりと動くが、手はつながれることはなかった。

「………やめとく。***、一人で平気か?」

「それをそっくりそのまま返すよ、ドクター」

もう一度ピンクの帽子を撫でてから、ポンっと手のひらを弾ませた。

「食われるなよ」

「食われねぇ!」

握りこぶしを作りながら言い返してくる姿に声を出して笑ってしまった。

「笑うな!」

「ごめんごめん、行ってくる」

ポカポカと可愛らしいパンチを繰り出してくるチョッパーから逃げるように雪の中へと駆け出した。
身を切り刻むような勢いで吹き付けてくる風にフードをかぶったところで、


「気をつけろ!」


背中にかかった可愛らしい声に耐え切れずに口元を緩ませ、ひらりと右手を振って見せた。




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