NO WHERE.
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「ここも人があまり使わないからこのあたりでいいかな」
古い包帯やガーゼを拝借して簡単な巣もどきを作り上げて肩に止まったままの親鳥を見上げる。
クルルル、という鳴き声にほっとしながら胸元の雛を巣へと移した。
「無事でよかった」
これで一匹でも欠けていたり、親鳥に怪我でもあったらあの二人は春が来るまで氷付けにしてやるつもりだったが、雛も親も怪我ひとつなく元気そうだった。
初めて触れた小さな雛。
艶やかで美しい親鳥。
至福の時間だった。
怖い想いをさせてしまったし、後でパンでも持ってきてやろう。
それくらいは今日は許されるだろう、と。廊下を歩きながらキッチンへと向かいかけたところで、歩いてくるドクトリーヌの姿を捉えた。
背後に従えている男達の背中や肩には怪我人が見える。
「大繁盛ですね」
「バカが多くて参るよ」
まったく、と面倒くさそうに言葉を紡ぐがこの女性の心は誰よりも優しく人想いであることを知っている。
「何かスープでも作りますか。といってもそんなに材料はないですけど」
「いや、いいよ。それよりもチョッパーを探しといとくれ」
「チョッパーを?」
これほどの人数の怪我人がいればチョッパーも付き添っているものだと思っていたが、傍にあの小さなトナカイの姿はなかった。
「海賊に追われていてね」
「は?」
「外にいるから連れてきておくれ」
頼むよ、といわれてしまえば探すしかない。
しかし追われているというのは?
また肉扱いされているのだろうか、と足早に歩を進めようとして、
「***、アンタは―――」
背中に珍しくも低く潜められたドクトリーヌの声がかかり思わず足が止まった。
数歩離れた距離で振り返る。
「なにか?」
「………いい。何でもないよ」
緩く首を振る姿がらしくなく小さく見えて。
「ドク?」
一体どうかしたのかと離れてしまった距離を縮めようとした瞬間、
「とっとと行きな!こっちは大忙しなんだ!ほれ、お前らもちゃきちゃき運ぶんだよ!」
言い返してきたその姿はいつものドクトリーヌだった。
しっし、とまるで犬を払うような仕草を残した139歳の女性が数々の男性を引き連れて城内を歩いていく。
その背中はピンっとしていて、後姿だけでは139歳には見えないだろう。
けれど先ほど見せたあの寂しげな表情は―――一体なんだったのだろうか。
首を傾げ傾げ、とりあえず言いつけ通りチョッパーを探す為に城外へと足を向けたのだった。
2012.2.4