NO WHERE.

□26
1ページ/2ページ



どこからか水音が聞こえる。



ああ、またシャワーを出しっぱなしにしてしまったのだろうか。
任務後に浴びたものを止めずに寝てしまい、朝起こしに来たザックスに呆れられた覚えがある。
よくもこの湿気の中で寝ることが出来るな、と。
また止め忘れたのか、とぼんやりする頭で考えるが、聞こえる水音は雨でもシャワーでもなく―――。

ゆっくりと目蓋を開ければ、見慣れぬ木の天井があった。

神羅の自室でもなく、ドクトリーヌが診療所を構える城の自室でもなく、………どこなんだろうか、ここは。
上半身を引き起こしてみたが、何故か身体が鉛のように重い。

まるで身体だけが未だ寝ているような鈍い動作に内心で舌打ちしつつも腰へと手をあててみたが、慣れた感触はなく丸腰であることに眉根を寄せた。
見覚えのない場所で目覚め、武器は取り上げられてしまっているこの状況をどう捉えるべきか。

とりあえず立ち上がるか、とベッドであろう場所から足をおろそうと体勢を変えたところで前髪がゆるい風を感じた。
ゆっくりと首を巡らせれば、見覚えのない木の扉が半分だけ開いていた。
そこに逆光を受けて浮かぶシルエット。
こちらをのぞきこんでいるかのようなその影は、

「………チョコボ?」

鳥―――、人が騎乗できそうなほどの大きさの鳥のシルエットに思わずそう呟けば、クエー、とそれが声をあげた。

「カルー、どうしたの?あら、目が覚めたのね!」

キィっと全開となった扉、鳥の隣から柔らかなシルエットが現れ声があがる。
聞き覚えのない声に眉根を寄せれば、

「お、目が覚めたのか!」

「どれどれ」

「やっとね。どんだけ薬盛られたのよ」

「***ー!」

どやどやと見たことのある顔や知らぬ顔が現れ始めた。
一体全体これはどういうことなのか。
小さなトナカイに力いっぱい飛びつかれて、引き起こした身体がぐらりと揺れる。
普段なら難なく受け止められる行動に本格的に体勢を崩してしまった。

力が入るようでいて入らない。
小さな蹄が慌てたようにこちらを支えるのを見ながら、こうなる前の記憶の糸を手繰り寄せる。

海賊。
そう、『海賊』であったらしい風変わりな青年たちを治療したと思ったら前城主が現れ、そして―――彼らと『海賊』として生きるのだとチョッパーが出ていった。
それを見送ったのだ。
優しいトナカイの無事を願いながら。
ドクトリーヌがピンクの雪を降らせて。

ヒルルクという親友――そう称すると烈火のごとく怒るが、その人が成功させた灰をチョッパーの門出に向けて打ち上げて。

そして。
小さな花弁となった雪を見つめている時に解雇を言い渡された。
仕方がないと街で仕事を探そうと思ったのに―――…途切れ途切れの記憶がはっきりしていく。
最後に腕を掴まれ首に駄目押しと言わんばかりに注射針を差し込まれたことまで思い出した。

重く感じる腕を引き上げて首筋をなぞる。
今は痛みも違和感もないが、血管に注射針が差し込まれる感覚は、確かにあった。
容赦なく差し込まれたのも覚えている。
これは現実なのか、それとも夢なのか。

見知らぬ場所に、見慣れぬ人物達。
唯一とも思える、間近でこちらを心配そうに見上げてくる黒い瞳を覗き込んで、



「ここは、どこだ?」





.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ