NO WHERE.
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「―――***」
いつ聞いてもビックリするほどの美声に名を呼ばれて振り返る。
銀の髪がふわりと揺れて、魔晄を浴びたソルジャーの中で唯一澄んだエメラルドの瞳を持つ存在がこちらを見つめていた。
不意に沸き起こったのは熱くて真っ黒な感情だった。
怒りのような、苦しみのような、悲しみのような、憎しみのような、殺意のような、それら全てが混ざり合った混沌とした感情。
ギリっと両手が腰にある両刃の刀のグリップを握りこんだ瞬間―――
「***?どうした」
不思議そうな声音に、胸を渦巻いていた異常なまでの感情が霧散する。
「あれ?」
「寝ぼけているのか」
呆れたような声に、いや、と首を振る。
寝ぼけては、いない。
普段通りだ。
なのに、と。
首を傾げながら左胸に手を置いた。
一瞬のうちに自分を支配した感情。
そして同じように霧散した感情。
心臓は早鐘のように脈打っている。
不思議そうにこちらを見つめる相手は、知った存在。
なのに、何故。
何故こんなにも落ち着かない、のか。
まるで敵わぬ敵を前にした時のように、背筋が総毛立ち冷たい汗が滲んでいるのか。
「セフィロス」
「なんだ」
「……セフィロス」
「やはり寝ぼけているんじゃないのか?」
くっくく、と喉奥を震わすようにして笑う姿。
「***」
唇が。
形のいい唇が、こちらの名を紡ぐ。
それが何故か、まるで水の中にいるように遠く感じられた。
呆れたような表情を浮かべ、こちらへと向かってくるその表情に―――泣きたいほどの、息苦しいほどの、猛烈なまでの懐かしさに襲われて腕を伸ばした。
なぜだろう。
何も変わってはいない。
変わってないはずなのに。
こんなにも懐かしいのは―――。
驚いたようにエメラルドの瞳が見開かれる。
腕を伸ばしその長身を抱きしめたいと思ったのは何故なのか。
指先がその長身へと触れた瞬間―――、エメラルドの瞳が蕩けそうな微笑みを浮かべる。
けれど、それは、人間の瞳とはかけ離れていた。
瞳孔が縦長に切れ、爬虫類を思わせる形へと変化したもの。
それは、あの時、
魔晄炉へと突き落とされる最後の時に見た―――、
鋭い、全てを覆い尽くすようなまばゆい閃光に包まれて思わず目蓋を閉じた。
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