NO WHERE.

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「ドク」

「なんだい」

「暇なのですが」

「絶対安静ってのはそういうもんだよ」

今日も若者のように派手なファッションに身を包んだ139歳の女性が事細かに診察をしてくれている。
いつ神羅が派遣したソルジャーやタークスどもがなだれ込んでくるかとピリピリ張り巡らせていた警戒は、絶対安静中の1日目でやめた。
もしもこの身をやっきになって探しているのであれば、気を失っていた一週間という期間の中で何かしらのアクションはあるに違いない。
意識のないまま囚われて科学部門での人体実験中に目を覚ます―――なんてことになっていたはずだ。

神羅のしの字も知らないドクトリーヌとチョッパーがいるこの地だからこそ7日以上も掴まることがなかった、と捉えていいのではないだろうか。
神羅を知らない土地―――情報も入らないが、こちらの情報も出ていかないのかもしれない。
そう考えると警戒して気をはっているのも馬鹿馬鹿しくなり病人らしく気を抜いていようと思ったのだが、ハイポーションである程度一気に回復してしまったからなのだろうが、絶対安静の3日間は暇で暇で暇で仕方がなかった。

寝るにも限界がある。
そして可愛いチョッパーはとても優秀で。
決して監視の目を緩めなかった。
少しくらい起き上がっても、と身じろぎした途端にダメだダメだと可愛らしい声で注意されてしまうので、背中とベッドがくっついてしまうのではないかと思うほどの時間、寝転がっていた。

たった3日、されど3日。
これ以上『絶対安静』の日々が追加されたら苦行でしかない、とライトをあてて瞳の中を見つめるドクトリーヌを光越しに必死に見つめた。

「経過は順調のようだね」

「はい」

ハイポーションを使えど身体の芯が軋むような痛みを感じることはあったのは確かだ。
けれど3日もベッドに縛り付けられ痛みも感じにくくなった。
普通に動く事に関して言えば支障はない、という意味を込めて頷けば、

「そろそろリハビリを始めてもいいね」

「……リハ、ビリ?」

「本当か、ドクトリーヌ!」

付き添いのチョッパーが声を上げる。

「ああ、本当さ。これ以上寝ててもなまっちまうだろう?今日からぼちぼち開始するよ」

リハビリ。
それは、身体に障害のある人などが、再び社会生活に復帰するための、総合的な治療的訓練を指す。
痛みも引き自由に動かせるようになった手足を見下ろす。
そこまでするほどではないとは思ったが、それを口にすることはなかった。
医者に逆らうことなかれ―――この地で学んだ教訓である。


とりあえず、動ける―――。
ベッドから出ることが出来る―――。
これがどんなに喜ばしく嬉しいことか!






この時は『リハビリ』という言葉には『あらゆる事』が含まれていると思いも付かず、
ただただ動けること、
ベッドから離れられることの喜びを、
夢のように聞いていたのだった。














「………、何故、俺は洗濯を?」

木製の大きなタライに入っている洗濯物。
隣に置かれているのは洗剤らしき粉。
その前に座らされ呆然とする。
この極寒の地で手洗いをしろというのか。
水で。

「ドク」

「なんだい」

呼びかけた女性は、タライの前に座り込んでいるこちらを見下ろしてヒッヒッヒ、とご機嫌な笑い声をあげた。

「失礼ですが、140とはいえ曲がりなりにも女性なのですから下着くらいはご自分で―――…うわっ!」

「アタシはまだ139歳だよ!」

「1歳を気にするのでしたら、女性用下着はご自分で洗ってください。そしてすぐに蹴りに訴えるのもよくないですよ!」

「ぎゃーぎゃーと煩いね。たいしたことないだろ」

「…女性の慎みっていうか…そんな、堂々とヒモパンはどうなんですか。貴方には恥じらいってものがないんですか…」

いつから溜め込んでいたのか―――もしかしたらこの身を看病してくれていた7日分+αなのか。
大量の洗濯物を前に驚いていたが、もっと驚くというより、引く事が。
堂々と洗濯物の上に置かれているのは紐のようなもの。何かと思って指にかけてみればそれは紐ではなく―――下着であった。
はいてるのが目の前に立つ女性かと思うと残念を通り越して切ない想いとなる。

「ヒッヒッヒ、つべこべ言わずにやりな。若い男に洗ってもらった下着をはくのが若さの秘訣さね」

堂々としたセクハラ発言には重い溜息で返せば、

「***、それが終わったら風呂掃除だよ」

「………はい?」

「明日からは食事の支度も、この城の掃除もアンタがやるんだからね」

「!?」

さらりと言われた事柄に傍らに立つドクトリーヌを驚愕の眼差しで見上げる。

「アンタ、金はあんのかい?」

「は?」

金?

「こっちは慈善事業でやってるわけじゃないんだよ!あんたを元気にするのにどれくらいの時間と薬を使ったと思ってるんだい。金がなければ働いて返しな」

ビシっと言われ黙り込む。
金を、取る気だったのか。
慈善事業じゃないというのは分かる。
絶対安静中、監視の目を緩めなかったチョッパーと交わした会話の中で、冬が長いこの地では薬の元となる薬草は全て貴重なものだと言っていた。
原始的な治療法をしているここでは薬を作り出すのにかなり苦労するのかもしれない。

残念ながら、今、手持ちはない。
だが、銀行まで行くことが出来ればかなりの金額が眠っているので欲しい額を言ってくれれば用意することは出来る。
この身が犯罪者として手配されていなければ、の話となるが。
指名手配なんぞをされてしまっていたら口座は凍結されてしまっているだろうし、そんな所にのこのこ引き出しにいった途端、神羅までこちらの居場所が筒抜けになりそうだ。

もうひとつ、モンスターを倒して得るという手もある。地道に戦闘を重ねればそれなりのギルは手に入りそうだが、回復魔法やアイテムがない今、この状態でどこまでいけるかが問題だ。
無理をしてまた倒れ世話になった途端に返す恩が加算されそうで。
となれば―――、ドクトリーヌの言うように身体で返すしかないのだ。

「炊事掃除洗濯、たっぷり働いてもらうよ」

「横暴だ」

と小さな呟きを落とした途端、お年の割には地獄耳の女性から鋭い蹴りで頭を狙われ、ぐっと力を込めて唇を閉じた。







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