NO WHERE.

□09
1ページ/2ページ




濡れて冷たくなった手を乾いたタオルで拭う。
磨き上げ、輝くキッチンを前に満足気に頷いた。
完璧であると思う。






小間使いっぷりが段々と板についてきたせいか炊事掃除洗濯、風呂やキッチンをピッカピカに磨き上げておやつまで作成しても一日のうちで自分の時間が作れるようになった。
自分の天職はソルジャーではなくてこちらだったのではないかと思うほどに。

リハビリという名でこき使われるようになった最初の数日は、それはもうやること多すぎて一日中アップアップで。
あっちもこっちも朝から晩まで働いて、何故こんなに時間がないんだ、と愕然としたが(まったく掃除が終わらずドクトリーヌの鋭い蹴りが炸裂した)コツを覚えれば段々と自分で使える時間が増えてきた。

コツというより、しっかりやる場所と多少手を抜いても大丈夫な箇所を覚えたと言った方が早いかもしれないが。
今まで文句が出てないので良しとする。

ふむ、と満足気にもう一度頷いてから火の元を確認してキッチンを後にする。
寒風吹き荒む石造りの階段を進む。
吹き抜けていく風はここが屋根のある城の中なのかと疑いたくもなるほどの冷たさであるので、各部屋の扉はキッチリと締め切られている。

ドクトリーヌもチョッパーも、今日はやることがあるのか食事以外部屋から出て来たような気配がなく、城内はしんっと静まり帰っていた。
キッチンからの慣れた道のり。
否、キッチンからではなくもうこの城のどこに居ても、目を瞑っても歩いていても、迷うことはない。
それほどまでに慣れた。

そんな、小さな達成感を噛み締めながら、目覚めた時の部屋をそのまま使わせてもらっている部屋の扉を開ける。
火の入った暖炉によって暖められた空気が頬を撫でる心地良さに目を細めながら、やはり慣れた光景を見つめる。

ベッドとクローゼットと机と椅子。
壁にある不気味なオブジェというだけの簡素な部屋ではあるが、居心地はいい。
んっ、と背骨を伸ばすようにして歩きながら、開けっ放しの窓から見える雪景色を何となしに眺めた。

山頂という場所がら、窓から見えるのは降り続く雪しか見る事は出来ないが、
生まれ故郷でも、ミッドガルでも白にそまった空間など見たことのなかった。
こんなにも綺麗なものを見飽きる日はこないだろう。

そう思わせるような景色を噛み締めるように記憶して、窓から視線を逸らす。
伸ばしていた背筋を元に戻し、ぐるりと首を回した。

体調は―――ほぼ万全に近い。

身体の芯に微かに残っていた鈍い痛みもほぼ皆無といっていい状態だ。
両手を動かして状態を見る。
いい感じだ。

目蓋を閉じて呼吸を整え深く息をつくようにして、自らの内部を探るようにゆったりと意識を伸ばす。
空っぽだった場所に力がみなぎっているのを感じて微笑む。
そのまま机の引き出しから黒のポーチを取り上げ中身を確認する。

中に入っているのは宝石のような輝きを持つ光沢のある石。

宝石のようでいて宝石よりも価値も力もある存在達を手にしてゆるりと息をついた。
自分が育てあげて最高値にまでした愛しい者達。
ひとつ取り出してから、視線を窓へと戻す。

先ほどと変わらず白い花弁のような雪が降り続く山頂はこの城と木々と―――この雪しかない。
未だに身体を大きく動かすことはドクターストップとして止められてはいる身ではあるけれど、それ以外は大きく禁止されている事項はない。
あれだけ炊事洗濯に駆けずりまわっていてドクターストップも何もないと思うが。



少し、外へ出てみようか。
ついでに本当に万全に近いのか試してみたい。


コートを羽織り、ポーチを片手に玄関ホールへと向かった。




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ