NO WHERE.

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廊下を歩いていたらドクトリーヌに呼び止められた。
なんだろうと思ったら洗濯物を投げられた。
この城で彼女に逆らうほど損なことはないとひきつった笑みで受け取った。





「一応女性なんですから下着くらいは自分で洗いましょうよ」

「一応は余計だよ」

にやりと浮かんだ笑みはドSの笑みだった。
若い男にやってもらうからいいんだよ、と軽くセクハラを越えた発言にはーっと深い溜息をついた瞬間、

「***ー!***ー!あ、いねぇ!」

可愛らしい声が城内へと響く。

「どこだー!」

こちらを探しているような声音にひょいっと手すりから顔を出して吹き抜けから小さなトナカイの姿を探してみたのだけれど、見つからない。

あの日―――雪原に倒れこんで助け出された日からチョッパーとの関係が少しだけ深まったような気がする。
野生動物のようにこちらの動作に敏感で、ただ見つめるだけだったものが、徐々にではあるけれどこちらに向かいアクションを起こしてくれるまでになった。

名を呼び、話しかけ、触れてきてくれるのだ。
差し出した手をためらいつつもぎゅっと握ってくれるあの感触。
手を繋ぎ歩くなんて何年ぶりだろうか。

小さな蹄を握って歩く、これ以上ない幸せを噛み締めた笑みはにっこりとした可愛らしい笑みに迎えられる。
可愛い。
とてつもなく可愛い。
それを本人に向かって言うと、可愛くなんてないぞ、とむくれてしまうので専ら心の中だけで主張するだけである。

今日も何かあるのか、何かあったのか、この自分を声を張り上げて探してくれている。
なんだかむず痒い嬉しさに襲われて口元が緩むのを誤魔化すように階下へと向けて声を張り上げた。

「チョッパー!ドクの部屋の前だ!」

「分かった!動くなよー!」

途端に、カツカツと蹄の音が城内へと反響する。
それを聞きながら吹き抜けに出していた顔を戻すようにドクトリーヌに向き直ると、なんとも複雑そうな表情に出会うことになった。

なんだろう?と首を傾げれば139歳とは思えない瞳がすぅっと細まり、

「―――ずいぶんと手なずけたもんだね」

紡がれた言葉に思わず眉間に皺が寄る。

「人聞きの悪い事をさらっと言わないでください。手懐けたわけじゃなくて、こちらが手懐けられ―――…ごほ、……友情関係を育んでるんですよ」

「トナカイと、かい?」

「チョッパーと、です」

ふんっと鼻で笑われる。
なんだろう、いやに今日はつっかかってくるな。
なにか問題にでもなるのだろうか、とこちらを見つめてくる鋭い瞳を見返していると小さな足音が聞こえてきた。

「あ、いた!!ドクトリーヌ、***を借りていいか?」

「―――好きに持っていきな」

ひらりと右手を振って、興味なさげに視線を外すその仕草に首を傾げた。



「ドク?」



疑問を含み名を呼んでみるものの、自室の扉を閉じようとしている彼女がこちらを振り返ることはなかった。




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