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□ていきてきにけづくろいをしてあげましょう
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▼ハルタ視点




「なにしてんの?」
「ふぁい?」






夜も更けた―――深夜といっても差し支えのない時間。
ふいに目が覚めてしまったハルタが気分転換にと甲板へと訪れた時だった。

心地のいい夜風に身を任せ、このまま朝を迎えてもいいなぁ、とそう思った視界の端に映った影。
それが人影であることに腰にある刀へと思わず手が伸びたが、警戒は一瞬のうちに霧散した。
人影は人影でも、それは異世界から来たという***という男のもので。
しかもその異世界人が気持ちよさそうにのっぺり甲板へと寝そべっているのだから、警戒もなにもない。

身体に入れてしまった力を少々悔しく思いながらの問いかけ。
それが―――冒頭のものである。

寝ぼけた返事を返してきた相手は、パチパチと瞬きを繰り返してようやく上半身を起こしてみせた。
くあっと大きな欠伸をしながら潤んだ瞳でじーっとこちらを見つめ、

「ハルさん?」

「惜しい。ハルタ」

「ああああ、すみません。ここ人数が多くって」

気まずそうに髪をかきながらぺこりと頭を下げてくる相手に、別にいいと首を横に振る。
イゾウやサッチから名前と顔を一致させようと頑張っているらしい、というのは聞いているので、間違ったら訂正してやればいいことだ。
1600人も暮らしている船であるから全員を覚えることは無理に近いだろうけれど、隊長格くらいの名前は覚えておいて損はない……と思う。

「で、こんなとこで何してんの?」

名前はいいとして、最初の質問へと戻ることにした。
こんなとこ。
モビー・ディック号の甲板の上。
いくら夜風や星々が心地よい夜とはいえ、何をしていたのだと問えば、





「え?寝てましたけど?」





「―――は?」




確かに。
確かに人影は横たわったものであったけれど。

「寝てたって、甲板で?」

「えー、あー、まぁ…」

「だって」

なんだか良くわからないが、自分では帰ることの出来ないらしい異世界からの客人。
とりあえずとこの船へと留まることにしたらしい存在は、ある意味このモビー・ディック号での話題の中心だ。

やれマルコが口説いていた、だの、
食事風景が貴婦人のようだの
海王類を捕まえようとしただの、
ありえない跳躍力を見せた、だの、―――、たった数日のうちにハルタの耳に入ってくる話題はほとんどがこの青年のものだった。

巨大な船の上、姿を見ることはあまりなかったけれど存在感は強烈で。
しかも敬愛するオヤジが『客人』としたならと、彼の扱いもある意味特別であったと思う。
というよりも客人なんてものを抱えたことがなかったので、扱いに困ったともいえる。




だから、何故、甲板なんかで寝ているのかが分からなかった。




いくら巨大であろうともこの船に余分はない。
抱えた客人に対して、部屋はどうするか、空いていそうなのは物置か倉庫かだがそんなところに押し込めておくわけにもいかず、大部屋の片隅でもいい、と本人が言うので
そこになったはずだが。
じっと凝視すれば、こちらを見つめていた瞳がうろうろとさ迷いつつ―――、ポツリ。

「いや、大部屋でももちろん充分でありがたかったんですけど………なんだかやっぱり薄気味悪いって思う人もいると思うんで。この広い甲板だったらどこに寝てても大丈夫かなぁと」

決まり悪そうにぼそぼそと呟くその声に目を丸くする。
人馴れしている青年。
誰に対しても気さくでフランクに接してはいるが礼儀も気配りも忘れない。
サッチ曰く、幼馴染だという『ブレア』という女性への対応から自然と身に着けたものらしいが、

「気にしなくていいのに」

「嫌な想いをさせるくらいなら甲板で充分です」

「でも今は春だからね。冬になったらどうするの?」

「ふ、冬?」

は?と驚きを露にするその表情にひとつ息をつく。

「グランドラインは季節がしっちゃかめっちゃかで、進路によっては春だと思えば冬が来たり、秋が来たり、と目まぐるしく変わるんだ」

「……す、凄いっすね」

「冬になると猛吹雪の中航海することもあるよ」

大丈夫なの、と問うように見つめれば、パネェ…と小さく呟いた相手が項垂れる。

「その時は食堂の片隅でも」

「コックが嫌がるでしょ」

「うう、物置か倉庫で…」

「白ひげ海賊団は客人を物置や倉庫で寝かせるのかってなっちゃうね」

「………甲板でいいです」

吹雪くらいなんぼのもんじゃーい、と自分に言い聞かせるようにぐっと握りこぶしを作り上げた相手に小さく笑う。

「俺の部屋にくれば?」

「―――…は?」

「だから、俺の部屋」

隊長ともなれば個別の部屋がある。
そんなに広くはないがもう一人くらいは寝るスペースは充分あった。

「え、いや、そこまでは…」

「俺は嫌じゃない。で、―――***は?」

初めて口にした名にほんの少しドキドキする。
話は人づてに聞いていた。
マルコやサッチと仲が良くなっているということも。
サッチはともかく、珍しくマルコも乗り気で面倒見ているということも。
彼がしたこと、やったことの話は知っていても彼自身のことは何もしらない。
異世界から来たということだけ。

警戒?

滅ぼしたいという意思があるのなら、あれだけの力を持っている存在がこんなところで『気味悪いだろうから』なんて寝転がっているわけがない。

珍しいもの、面白いもの、不思議なもの―――そんな全てを押し込んだような存在。
異世界から来たというのを信じれば彼そのものだ。
伊達に海賊をやってるわけじゃーない。
こんな面白いモノを放っておく?

うん、出来ないでしょ。

どう?と小首を傾げてみせると、呆然とした様子で頭のてっぺんからつま先までゆっくりと二往復した視線がこちらへと据えられる。

「えっと、……お、お世話になります」

よろしくおねがいします、と深く下がった頭ににこりとした笑みを浮かべてみせたのだった。









ていきてきにけづくろいをしてあげましょう 





(おはよう)
(お、なんだハルタと………***か。珍しいな。同伴出勤か?)
(うん、そう)
(………ハ、ルタ?)
(昨日から***は俺の部屋の住人になりました。ってことでよろしく)
(え?ええええ?)
(ご飯食べよう、***)
(うい)
(つか朝弱いの?ちゃんと起きて)
(うい)
(って、どういうこと!?なにがどうなってんの!?)
(煩いよ、サッチ)
(煩い、サッチ)






珍獣の飼い方10の基本


2011.9.18
 

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