ジャンパー!

□きほんてきにマイペースです
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▼マルコ視点





そいつは突然―――何の前触れもなく現れた。




グランドラインとは思えぬほど穏やかな海を進むモビー・ディック号の甲板の上空。
そこがスパっと刃物で切られたかのごとく割れ、その隙間をひょいっとくぐってきた相手。
誰もがあっけに取られる間にその男は身軽な動作で甲板へと飛び降りた。
パンパンと上着を軽く叩き、右手に持ったボストンバックを腕にかけなおして、そして、初めて―――視線が上がった。

きょとんっとした表情の後、丸い瞳が見開かれる。
ぐるりと辺りを巡る視線。
そして、

「あわわわわ、ブレア!ちょ、なんか絶対に堅気に見えないごっつ恐ろしいお兄さん方が殺気駄々漏れでこっち見てんだけど!?」

と叫んだ。
ブレアってのは誰だ。
というよりお前はどこから来た。
摩訶不思議な方法で突然現れた相手にのんびり構えているような奴はこのモビー・ディック号の上にはいない。

「間違えてるよ!めっちゃ間違えてるよ!お願いした土地じゃな―――……は?自分で行け?あとは自分で行け、と!?ちょ、待った!待った!マジで待って!」

いやぁぁぁ、という悲鳴を何もない空間、先ほど青年が現れ飛び降りた方向へ張り上げる。

おい、一体全体何だってんだ。

こちらにちらりとも意識を寄こしもしない。
何もない空間から人が出て来るだけでも驚きだってのに、一人で大騒ぎしている存在。

「なぁ、マルコ。あいつ、誰と喋ってんだ?」

電波か?と隣に立つ昔馴染みが声をかけてくるが、青年から視線を外すことは出来なかった。
不振な行動をしたら―――しなくともすぐに飛びかかれるように。

「知らねぇよい」

「まったく動じてねぇみてーだな」

立派なリーゼントを揺らして声を紡いだ相手に溜息だけで答えた。

「オークション会場とは言わずともせめてヨークシンシティーには下ろしてほしかった…つか…あれ?まった。なんか物凄く不吉な予感がするんだけど」

こちらのことは綺麗さっぱり無視する形で突然現れた青年はおろおろと何もない空間と辺りを交互に見つめてから、

「ふざけんなよ、ブレア!―――いえ、ブレア様!待て、待って!お待ちになって!海!なんか海の上にある船っぽい!うわー!ダメダメ!戻る!戻るんだって!
外が海なんだもん!ていうかここめっちゃデカい船なんだもん!!絶対に一人じゃ行けないもん!……あー!戻るから!待って、戻してーー!」

悲痛な叫び声をあげた。
その叫びだけ聞けば一般人が海賊船に紛れ込んでしまったと取れるかもしれないが、コイツは自分からやってきた。
空間を切り裂いて登場するという考えられない方法で。

バタバタと空に向けて手を振り上げて、いやだいやだ、かえる、と繰り返す相手。
そのうちに顔から焦りが消え、絶望が現れた途端、

「鬼ーーーーー!」

大絶叫が甲板へと響き渡った。
まるでこの世の全てが終わったとでも見てとれそうな項垂れ具合で、肩を落とす。
ぐすぐすと聞こえるのは泣いているのかもしれない。
影を背負い落ち込む相手に甲板で殺気を振りまいていた連中は散々無視されつくしてきていたのでどう声をかけていいのか、どう反応していいのか分からないようだった。

はーっと重い溜息をついて、沈んでいた頭が上がる。
こちらに向けられた顔は息を飲むほど美しいというわけではなかったが、日差しの強い甲板の上では白く透き通っているかのように思えた。
海風にさらりと髪が舞う。
男にしては薄く色づく唇がゆっくりと開き、



「――よ…」



よ?





「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん?」



「誰も呼んでねぇよい」





とりあえず突っ込んだ。





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