ジャンパー!

□だっそうにきをつけましょう
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▼マルコ視点




自室でゆったりとした時間を過ごしていたマルコはふいに感じた大きな揺れに視線を上げる。
モビー・ディック号が揺れた。
巨大なこの船が『揺れる』ということはあまりない。否、ないと言って等しい。

何があるのか、何かがあったのか。

首筋を摩りながら自室を後にし、薄暗い船内を歩く。
甲板に近づくにつれて響き渡る声の大きさと勢いに、そこがいやに『騒がしい事』なっていることが知れた。
珍しい海獣でもきたのか、海王類か―――それとも敵襲か。

海獣や海王類であれば早めに対処しなければならないし、敵襲であれば骨のある奴であって欲しいとそう願う。
年々白ひげ海賊団へ喧嘩を売るような血気盛んな輩は少なくなってきているのだ。
暴れ足りない。
今日の担当はどの隊だったかとつらつらと考えながら足を進めた先で、騒がしさが普段と違うことに思わず首を傾げてしまった。

「やめろ、ばか!」

「なにやってんだ!」

「離れろ!こっちこい!」

「相手が海王類だと分かってんのかよ!」

響き渡る怒号と悲鳴。
それもそのはず、甲板へと出た途端歩みが一瞬止まる。
モビー・ディック号のすぐ脇の海面からぬっと鎌首を擡げるようにしてこちらを見下ろしている巨大な生物。
パチパチと瞬きを繰り返してもそれが消えないということは幻ではない。

ということは、だ。

海王類を前にやることがあるだろう、と騒いでいる一団に眉根を寄せたところで、
甲板と船室を繋ぐ扉近くに寄りかかりくつくつと笑いながら肩を震わせている存在に気がついた。

「――イゾウ」

「ああ、マルコ」

一撃で船を沈ませることも簡単な生物が近くにいるというのに何をしているのか。
苛立ちを込めて声をかければ、じんわり涙を浮かべた瞳がマルコを捉える。

「なんなんだよい」

「異世界人が海王類を見たことがないと興味を持ってさっきから、ああだ」

笑いながら視線を流すイゾウにマルコもつられて視線を流す。
甲板の端で騒いでいる集団の中にいるのはサッチと―――***、か。
こちらから顔は見えないが、なにやら物凄いテンションがあがっているのだけはその奇妙な動作で分かる。
細い欄干へと飛び乗り、身を乗り出すようにして両手を伸ばして、

「ちょうかわいいー!」

そう叫ぶ姿。
何が可愛いんだと確認するまでもなく、彼の前にいるあの蛇に似た海王類なのだろう。

「かわいくねーよ。ほんと、お前、いい加減にしろよ!?仕舞いにゃぶつぞ!」

「良く見てみなよ。あのつるつるした鱗につぶらな瞳………ときめきドキュン!」

「いいから降りろ!なんで欄干に立ってんだよ!」

甲板へ戻そうとサッチが***を引っ張っているというのに、細い身体はびくともしない。
ただただ一心不乱に海王類を見つめては時折ほぅっと悩ましげな溜息をついている。
なんとも不釣合いな光景にマルコは思わず手のひらを額へと宛ててしまっていた。

これこそ『頭の痛い事態』そのものだ。

蛇にも似た海王類がチロっと二股に分かれた舌が見え隠れさせれば、
きゃー、と嬉しそうな悲鳴と、
ぎゃー、という野太い悲鳴がモビーディックの甲板へと木霊する。
こちらを見下ろすその瞳の中に攻撃をしてくる気配はないが、船の傍に海王類がいるという事態は落ち着かない。

遊んでんじゃねぇよい、と。
まずはやることがあるだろうと、そう怒鳴りつけるつもりで思い切り息を吸い込んだ瞬間だった。

「決めた!ちょっと、いってきます!」

バランスの取りにくい欄干に足を置いてたっているというのに、揺れもしない***が海王類から視線を外し、こちらに向かい叫んだ。
満面の笑みを浮かべて。

は?
行ってきますって―――どこに?

誰もがそう頭の中で問いかけてだろう。
それが声に出なかったのは、言い放った途端、細身の身体がそのまま欄干を蹴りつけ高く跳躍したからだった。

ゆらりとモビー・ディック号が揺れる。
この船が揺れるほどの力を込めた勢いで飛び出していっているというのに、ふわりと舞うような仕草で蛇にも似た海王類の頭の上へと危なげなく着地した。
誰もが、呆然とその姿を見つめた。

驚きに、息も、言葉も、動きをも奪われる甲板に向けて、頭の上にあぐらをかいた***が嬉しそうな顔でこちらへ向けて大きく手を振る。
頭上にある存在を捉えようと巨大な目をぎょろりと動かした巨大な蛇は、不快に目を細めることも、首を振って異物を振り落とすこともせず何事もなかったかのように動きだした。

すぃっと海が割れる。

巨体をくねらせて海面を静かに割る蛇の頭の上で両手を叩きはしゃぐ青年が―――遠ざかっていく。
あっという間にそれは豆粒ほどの大きさとなり、モビー・ディック号の周囲には安全と平和が戻ったのだが、



「あいつ……海王類が海に沈むって知ってんのか?」



しんっとした沈黙に支配される甲板へサッチの呆然とした声がぽとりと落ちた。




「マルコ!」

「分かってるよい!」






イゾウからの声とほぼ同時に全身に青い炎を纏わせた姿と変化する。
そしてそのまま一直線に海王類へと向かうはめとなったのだった。








だっそうにきをつけましょう




(テメーは!なにやってんだよい!)
(うお!?鳥なのに特徴ある声と語尾はマルコさん!もしかして一緒にお散歩!?)
(んなわけあるか!!馬鹿な事言ってねぇで、掴まれよい)
(………何故に?)
(………)
(あっいたたたたたた!爪食い込んでる!千切れる!!掴むってレベルじゃねーですよ、マルコさん!)




2011.07.15

珍獣の飼い方10の基本


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