長編、シリーズ

□6.既視感に目眩
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『わぷっ』
『コーホー……す、すまない』
 彼女――千冬と初めて会って交わした会話はそれだった。いや、会話と呼べるほどのものではなかったかもしれない。
 キン肉ハウスから出てきた彼女とぶつかり、転んだ彼女はそれからこう言った。
『あれ、あなたはウォーズマン? 超人オリンピックは惜しかったねー。あんまりすごかったから、途中からキンちゃんの応援するの忘れちゃってたよ』
 あ、今のキンちゃんに聞こえちゃったかな? 笑顔が眩しい、可愛らしい女性だった。

『君はキン肉マンの友人か?』
 美波理公園のベンチに座り、俺たちはなぜか自己紹介をすることになった。
『うん、そう! 佐倉千冬って言います。気軽に千冬って呼んでくれたらいいよ。キンちゃんは牛丼仲間なの。牛丼愛好会にも入ってるよー』
 ウォーズマンはキンちゃんと友だちになったんだ? 無邪気な笑顔でそう尋ねられる。
『ああ。そうだ――』

『あ、猫! かわいーっ!』
 俺の返答を待つ前に、彼女は美波理公園の入口で欠伸する黒猫を指差し、走った。
(……落ち着きのない人だな)
『猫が好きなのか?』
『うん。猫、大好きっ』
 欠伸し終わった黒猫に近寄り、その体を撫でた。黒猫は気持ち良さそうに目をつぶる。

『あ、そうだ。猫はロシア語でなんて言うの?』
『猫は、『コーシカ』と言うよ』
『こーしか? へー。……あ、じゃあ飛行機はなんて言うの?』
 空を見上げて質問をまた一つ。『飛行機は、『サマリョート』』
『おっ……車は?』
 今度は道路を走る車に目がいって、また質問。『車は、『マシーナ』だ』
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