長編、シリーズ

□1.からっぽの0
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 何が起きたのか、理解できなかった。
 と言うより、何も理解できなかった。
 何かが足りない。頭にぽっかりと、大きな穴が開いたようで、なんだか落ち着かない。
 一体、何があったんだろう。わたし、わたしは――。



 わたしは、目を開ける。見知らぬ天井がわたしを見下ろしている。
「ここは、どこ?」
 返事はない。わたしは上半身を起こす。腕や胸、体中に軽い痛みが走る。辺りを見渡すと人の姿は見えない。
 薬品の匂いが鼻をつんと刺激する。どこかの病院だろうか。薄暗く狭い部屋に、わたしの眠っていたベッドがぽつりと、置かれている。部屋の隅には扉がある。外には誰かいるのだろうか。

 しばらくすることもなく呆けていると、部屋の隅の扉が開いた。
「……千冬、入るよ。……千冬?!」
 黒くて大きな仮面の男性が、部屋に入って来た。わたしの姿を見た途端、驚愕と歓喜の合わさったような表情を見せ、誰かの名前を叫ぶ。
「あの……」
「千冬、目を覚ましたんだね。良かった」
「千冬? それはわたしのことですか?」
「え……?」
「わたしの名前は千冬? それじゃあ、あなたの名前は……?」
 わたしの問いに、男性の表情が固まった。
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