長編、シリーズ

□3.親友は初対面
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 扉の向こうにあったものは、どれもわたしの見慣れたものではなかった。玄関に置かれた靴も、置物も、台所も、食器も、テーブルも、カーテンだって。どれも他人の使っていたもののようで、わたしの中には妙な罪悪感があった。他人の家に勝手に上がっているみたいで、そわそわと落ち着けない。

(黒い人――ウォーズマンさんがいなかったら、きっと逃げ出していた)

 道中、彼は一言も言葉を発さなかった。動きもどこかぎこちなかったし、彼は本当にわたしの友人だったのかと疑ったほどだ。だが、今目の前で共に茶を飲んでいる彼はどうだろう。
 ……穏やかな表情で、お茶を啜っている。やはり口数は少ないが、それが本来の性格なのかもしれない。それなら、道中会話が無かったこともうなずける。
(ウォーズマンさんも、動揺していたのかな……)
 どうやら、わたしは記憶をなくす以前のわたしと性格が違うらしい。それで動揺していたのかもしれない。
 ……まあそれはともかくとして、

(今日からこの人とふたり暮らし……か)
 ちゃんと、やっていけるかな……。と、物思いにふけっていると、家の呼び鈴がけたたましく響いた。それから、わたしの名前を呼ぶ女性の声が聞こえた。「千冬〜、ウチやで〜」
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