少数お題

□ただ見てるだけ
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※ウォ→ビビ要素有り


 彼はため息をつく。
 でもなにもしない。
 ただ見ているだけ。
 そんな彼を、わたしは見る。心にもない言葉で、慰める。
「告白しちゃえばいいのに。たまには押さないと、報われないよ?」
 報われなければいい。そう思いながら、わたしは彼の背中を押す。
 嫌な女だ。でも皆こんなもんじゃない? 好きな人に好かれたい、自分を見て欲しい、振り向いて。好き好き好き。だからあなたも好きになってよ。

 彼はどちらかと言えば消極的な性格だから、押しても押しても、その想いを告げることはしない。しかもその相手が仲間の恋人なものだから、彼が動き出すことはなかった。
「いいんだ。ただ、その姿が見れれば」
「それじゃあ、ストレスがたまるばっかりじゃない?」
「いいんだよ、彼女が幸せなら」
 千冬は優しいね。悲しげに微笑んで、彼はわたしの頭を撫でた。大きくて温かい彼の手を独占できるのはとても嬉しいことだけれど、彼の視線を独り占めできることは至福だけれど。

(虚しい、むなしい、ムナシイ)
 この人の心は占領できない、彼の想いはわたしに向くことはない、一途な彼がわたしになびくことなんて、きっと、一生ない。
 彼女が悪いわけじゃない。
 彼が悪いわけじゃない。
 誰かのせいにできないのは辛い。悲しい。虚しい。

 わたしはため息をつく。
 でもなにもできない。
 ただ――。

(ただ見てるだけで、我慢するしかない)



おわり
 

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