少数お題

□名前も知らない
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 夢を見る。
「あ、こんばんは」
 今日もわたしは夢を見る。
「またテメーかよ」
 赤とピンクの彼に会う夢を。
「まあまあ、夢なんだし堅いことはいいっこなしだよ」
 ツンととがった頭(帽子かなにか?)に、ギザギザの尻尾(スワローテイルというらしい)、そしてムキムキなのが印象的な男の人。名前は知らない。というか、忘れた。知ってもどうせ、夢の中で話したことは忘れてしまうのだからと、自己紹介は2度目以降からしなくなった。

「でも、どうしてか前に夢で会ったってことは、覚えているんだよね」
 不思議。わたしがそう呟けば、彼は呆れた顔でため息をつく。
「バーカ。んなもん、“夢だから”で片付けろよ」
「それもそーか」
 この夢を見るようになってから、他の夢を見た記憶がない。毎晩彼とここで会い、他愛の無い話をする。どうせ忘れてしまうのだけれど、長い沈黙のまま夢を過ごすのもどこかもったいない気もして、わたしたちはどうでもいいことばかり話していた。
 どうせ忘れてしまうのに。
 わたしは彼の話を聞くのが、好きだった。

「今日はなにをしていたの?」
「仲間……仲間とずっと練習」

「汗臭くない?」
「アホ。ちゃんとシャワー浴びたよ」

「あらほんと、フローラルないい香り」
「ケビンの野郎……あれほどやめろっつったのによ」

「友だちの趣味なんだ?」
「ああ。そんなとこ。……お前は?」

「わたし? わたしは……ずっと空を見てる、かな」
「空?」

「うん。空を見てるの」
「なにかあんのか?」

「うーん、よくわからない。どうして見ているのかも、わからない、し」
「ぼーっと空ばっか見てて、センコーに注意されないのかよ?」

「されてないよー、だって……」
「だって?」
「……なんでもない! あ、そういえばね、今日友だちができたんだ――」
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