捧げ物
□rain drop
2ページ/6ページ
「ただいま戻りました!」
師匠と二人で暮らすには、ブロッケン邸は広すぎる。トレーニングから戻るたびに、ジェイドは少し寂しい気分になる。ひとりぼっちでいるよりはずっといいが、やはりどこか儚い気分になる。胸にぽっかり穴があいたような、そんな感じ。
ずぶ濡れの体など気にも留めず、ジェイドはブロッケンJr.の待つ居間へと急いだ。長い廊下を、コーヒーの香しい匂いが漂っている。師匠にしては珍しいことだ。自分を優しい笑顔で迎えてくれることはあっても、どこか他人に無頓着なところがある彼がそんな気の利いたことをしてくれることは、今の今まで一度もない。
「おお、おかえり。ご苦労だったな、ジェイド」
勢いよく扉を開けると、そこにいるのはブロッケンJr.だけだった。ソファで新聞を眺めながら、コーヒーを啜っている。しかし、ジェイドはブロッケン邸に誰か訪ねてきているのがわかった。
ブロッケンJr.の父親の趣味だったのか、アンティーク調の少しこじゃれたテーブルの上にはもう一つ、これまたアンティーク調のカップが置かれていた。ジェイド用ではないらしく、すっかり冷めてしまっている。
「あの、レーラァ。もしかして、誰か訪ねてこられました?」
「ん? ……ああ一時間ほど前にな、ラーメンマンが来たぞ。そろそろジェイドが帰る頃だと言ったら、お前の分のコーヒーを淹れに、キッチンへ――って、話は最後まで聞くものだぞ、ジェイド」
言い終わる前に、目の前の弟子は姿を消していた。ブロッケンJr.はため息をつき、また新聞に目をやった。
(あいつ、随分濡れていたが。……まあ、ラーメンマンがどうにかしてくれるか)