50音お題(あ〜)
□噂をしたのに来ない影
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「ニコライは力持ちで、」
彼が照れながらプレゼントしてくれたクマのぬいぐるみに、私は話しかける。
「強くて、格好良くて、」
ぬいぐるみには「ニコ」と名付けた。二人きりの時にだけ呼ぶ彼の愛称。目の感じが彼の笑った顔によく似ている。
「優しくて、ちょっぴり照れ屋さんで、」
返事はしてくれないけれど、壁に話すよりもずっと楽。
「それから……誰よりも仲間思いで、素敵な超人なんですよ」
やっぱり「ニコ」からの返事はない。ニコライからの返事だって、ない。
当り前だ。
彼は、この世にはいないから。
「ニコライ……ニコライ」
正義超人だから、いつも危険と隣り合わせだということは理解しているつもりだったし、覚悟もしていた。でも、
「どうして今、死んでしまうの?」
こんなに名前を呼んでいるのに。来てくれないのですか?
私、まだ、
あなたと仲直りしてない……!
「ニコライ……ニコライ!」
もう一度、あなたに会いたいです。もう一度だけで、いいから……。
私は「ニコ」を抱きしめて、泣きつづけた。