Kuzan
□遠出日和
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「……大将、今日は何処へお出かけで?」
俺の副官になって長い彼は、俺の放浪癖をなおそうなんて努力はしない。
するだけ無駄なことだと、とうの昔に悟っている。
だから今日も、書類から顔を上げないまま尋ねてきた。
「んー……、ちょっとばかし遠いところ、かな」
俺は一瞬立ち止まって考え、また歩き出しながら答えた。
そもそも俺は、何処へ行こうか決めて出かけることがほとんどない。
なんとなく外へ出たくなって出て行くだけだ。
今日は偶々、遠くへ行ってみようかという気分だったからそう言ったにすぎない。
後ろで副官が小さくため息をつくのを感じながら、俺は執務室を後にする。
いつものチャリに跨るまでにやたら海兵に敬礼されたが、すべてスルーした。
「よっと……」
今日の海は静かだ。波が低くて、風もほぼない。
こりゃ、相当遠くまでいけそうだ。
「さてさて、どこまで行きますかね……」
パキパキと海に一本道を作りながら、俺はペダルを踏んだ。
この日、この時の俺はまだ、
自分の人生を大きく左右する出会いのことなど――当然の事すぎて
言う必要性すら感じないが――知る由もなかった。