Kuzan

□応急処置
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「じゃあさ、ティアちゃん…ティアちゃんはこれからどうしたい?」

とりあえず本人の意向を聞いてみればいいかと思い、
俺は俯くティアの顔を下から覗き込んだ。
未だにフードを目深にかぶっているせいで、ティアの表情は分かりにくい。

「おじさんに出来ることなら、何でもしたげるよ。だから遠慮なく言って?」

いつになく優しく言ってみたりするが、ティアは顔を上げてはくれない。
あの島を出た時よりは警戒を解いてくれているようだが、
まだ目を合わせられるほどじゃないのか。
それとも、元々こういう性格だとか?

いろいろ思案に暮れつつ、俺はティアの返事を待つ。
だが、またしてもティアは黙り込んでしまい
何も話してくれない。

――沈黙が続くってのは、どーにも気まずいもんだなァ…

俺はぼんやりとそう思いながら、ぽりぽりと頭を掻いた。
しゃがんでいる時間が長くて、いい加減腰が痛くなってきたので
ぐっと腰を上げ、立つ。

「……うぉっと」

その途端、突風が吹いてきてアイマスクが飛びかけた。
俺は慌てて、アイマスクを抑える。

真上の空は晴れているが、今風が吹いてきた方の空に
やや雲が見えていた。
振り返ったその方向、俺達が進んできたところを
追いかけてくる形で雲が迫ってくる。

(こりゃ、一雨来るなァ)

このままここにいては、間違いなく濡れ鼠になる。
能力者の俺としては、雨は避けたいところだ。張った氷も解けるし。
雲が来ない今の内に、何処かその辺の島で雨を凌げそうな場所に
移動しなきゃならない。
ぐるっと周りを見渡してみて、島が見えないかどうかを確認する。
俺は身長があるから、結構広い範囲が見える。
勿論、広い範囲となれば小さく見える島はその分遠くにある訳だが――

運良く、俺達が今進んでいこうとしていた方向に島が見えた。
小さくて判りづらいが、確かに島だ。
うん、あそこで良い。

「な、ティアちゃん。雨降りそうだから、とりあえずあそこの島に――」

雨宿りしに行こう、と言いかけて、俺は息を詰まらせた。
というか、息を呑んだ。ひゅっ、と、俺の喉が音を鳴らす。
言葉は息を吐きながら言うもんだ、と思ったかもしれないが、
別に息を吸いながら喋ろうだなんて思った訳じゃ無い。

ティアの方を振り向いた瞬間に俺の目に飛び込んできたものが、
そうさせただけだ。

「……あっ」

俺が驚いた顔のまま見つめていたら、
自分の顔を隠していたものが無くなったことに気がついて
ティアが小さく声を上げた。

さっきの突風で、ティアの顔に陰をつくっていたフードがめくれたのだ。
ティアの顔が、初めてはっきりと俺の目に映った。

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