Kuzan

□Scoperta
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通り過ぎていった雨で荒ぶった波間を、キコキコと自転車が通って行く。
青キジとティアは、終始無言だった。
風にはためくティアのワンピースがたてる音以外には、ただざぶーんという波の音しか聞こえない。
青キジは愛車をマリンフォードの海軍本部へ向かわせ、ティアは大人しく青キジの愛車に座っていた。

『おじさんと一緒に来ない?』

ホテルのロビーで青キジが発した一言にティアが頷くまで、また長い時間があった。
行き場が無くて困っている事には困っていたのだろうが、突然見知らぬ男に助けられ
自転車に乗せられてハイそうですかとあっさり頷ける程オープンな性格ではないらしい。
まあ、過去を聞いた限りでは致し方無い事だと思うが…

青キジは取り敢えず、自分が海軍という海賊を討伐する組織の大将であって、決して怪しい者では無い事、
海軍本部へ行けば今後生活する場所が見つかるかもしれないという事などをひらすら話した。
何故“ひたすら”だったかと言うと、ずっと閉鎖的な生活をしてきたティアは“海軍”という存在そのものを
知らなかったからである。その為青キジはまず“海軍”について木目細かに説明せねばならなかったのだ。

だが、そんな青キジの熱心な説明で青キジについていく事に危険が無いと理解できたのか
やがてティアはこっくりと頷き、「行きます」と小さな声で言ったのだった。

そして現在に至っている訳なのだが、元々青キジは遠出してきていたので本部に中々辿り着かない。
出かけた時にはまだ昇る途中だった太陽は、頂点を通り過ぎて西に落ち始めていた。











「大分遅くなっちゃったなァ…」

後頭部をぽりぽりと掻きながら、青キジは執務室へ向かう。その後ろを、ぽてぽてとティアがついて歩く。
すれ違う海兵達が皆脇に逸れ、ティアに「??」という目を向けつつ敬礼するので
ティアはずっと自分の足元を見ながら歩いていた。被っているフードを、ぎゅっと引っ張りながら。

「ま、取り敢えず入って頂戴な」

がちゃりと開かれた扉の向こうでは、青キジの副官が山積みになった大量の書類と睨めっこをしていた。
いや、正確にいえばせっせかとペンを走らせているだけなのだが、彼は書類を睨むように凝視しながら書いていたのだ。
扉が開かれた音に副官が顔を上げ、青キジを一瞥してからはーっと溜息をつく。

「随分と遅い御戻りで――…」

したね、と言おうとして、副官は青キジのひょろ長い体躯の陰に隠れていたティアに気が付いた。
疲労困憊した顔が、怪訝そうな表情をつくる。

「……子供連れですか」
「何考えてるのか丸分かりだから一応言っとくけど、俺の子供じゃないからね?」

明らかに“やれやれ…全くこいつは”という感じが込められている副官の言葉に、青キジは間髪入れず突っ込む。
ずっと俯いていたティアが、不思議そうに青キジの顔を見上げ、それから机に座る副官を見た。

「えーっと…ティアちゃん、シャワー浴びる?汚れてて気持ち悪くない?」


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