Kuzan

□君のために
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「……何だ青キジ、珍しく自分から来たと思ったら」

青キジの後ろからひょっこり顔を出したティアを見た瞬間、
センゴクの表情が険しくなった。

「ちょっとちょっと、そんな顔しないで下さいよ。ティアちゃんが怖がるから」
「……拾ってきたのか?お前が」
「ええ、まァ」

青キジがぽりぽりと頭を掻きながら、ちらと横目で自分の後ろに張付いて離れないティアを見た。
ティアはセンゴクの厳しい表情に怯えたのか、ぎゅっと青キジのベストの端を掴んで離そうとしない。
薄汚れたフードもしっかりと目深に被っていて、まるで青キジと出会った直後の様だった。

「それで、どうするつもりなんだ?こんな所まで連れてきて」
「最初は島まで送ってあげようと思ったんですけどねェ…ちょっと色々ありまして」

青キジがそう言って言葉を濁すと、センゴクは呆れた様に溜息を吐く。
先程まで書いていた書類を机の隅に置くと、ペンも置いて机上で手を組んだ。

「その『色々』をきちんと話せ。大将のお前が拾ってしまったのなら、何とか対応せねばなるまい」
「はァ…」

流石に元帥はその辺がしっかりしている。
というか元帥なら、見も知らぬ子供を本部まで連れ帰ってしまうなんて事も無いだろうが。

「……話すとちょっと長いんですけどねェ」

ティアを拾った経緯を話すには、まず自分が仕事をサボって外出した話からしなければならない。
どこをどう言い訳しようがそればっかりは話さなくては筋が通らないので、青キジは説教を覚悟で
自分が本部を出た所から話し始めた。

案の定出だしからセンゴクが渋い顔をして青キジを睨みつけていたが、
青キジはそれを無理やりスルーして話し続ける。
その間ティアはどうしていたかというと、青キジの話が始まってから終わるまで
ずっと青キジの背中に引っ込んで出てはこなかった。

「……そうか、良く分かった。それならば海軍の持つ情報を隅々まで探して、その子供の情報を得るのが一番だろう」

話を聞き終えたセンゴクが、がたっと席を立つ。
その瞬間、青キジには背後でティアの体がビクついたのが感じられた。
その体の震えで完全に怯えてるなと判断した青キジは、振り返る事こそしなかったが
ティアを安心させようとティアの頭を軽くポンと叩いてやった。
するとティアがパッと顔を上げ、不安そうな表情で背中から青キジを見上げてくる。
怯えの所為かうるっとした瞳が可愛らしくて、つい青キジは抱きしめたい衝動に駆られたが、
ここは元帥の手前、自重する事にしておいた。

「…大丈夫だよ、別に何も無いから。安心しなさいや」

ぼそっと小さい声でそう呟いてやれば、少しばかりティアの表情が和らいだ気がした。
下がっていた眉尻が上がって眉間の皺が消え、ベストを掴んでいた手の力も緩む。

青キジは、ティアが心を開くどころか
自分に懐きかけてるんじゃないかと思い、その点に何となく優越感を感じた。
元帥の事は怖がって顔すら出さない様な少女が、自分にはぴたりと張付いて離れようとしない。
つまりは、自分はこの少女にとっての『特別』なのではないか、と。
青キジは自然と、自分の口元が緩むのを感じた。

そんな青キジを見ている周囲の人間からしてみればそれは「ロリコン」以外の何物でもないのだが、
今回ばかりは少女の美しさが群を抜いているので何とも言えない様だった。

「探してる間、ティアちゃんどうするんです?」

青キジが、困った様な表情を浮かべながら元帥に聞いた。

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