Kuzan

□これからをつくるのは君と、
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「じゃァ行こうか、ティアちゃん」
「はい。よろしくお願いします」

青キジの愛車に跨り、青キジの背中に掴まって、
ティアがぺこりと頭を下げる。

センゴクの部屋を出た青キジとティアは直ぐに青キジの執務室へと戻り、
ティアの生活に必要なものを買いに行くべく早くも青キジの愛車で出かけようとしていた。

ティアは本部へ来た時と同じくして自転車の後部に座り、
青キジの大きな背中にしっかりと掴まって座っている。
一見、背中に子供を載せたコアラの様に見えなくもないが、
如何せんサイズ差とその纏う雰囲気の違いが、見る者の違和感を掻き立てる。

青キジは既に、いつも通りさして意識もしてない様子でパキパキと海を凍らせていた。
流石に週四回の割合で散歩兼サボりで出掛けていれば、
最早頭で考えるよりも先に体が動くという事なのだろうか。
白く浮かび上がった氷の道は、迷うことなく真っ直ぐに最寄りの島へと延びていた。

「えーっと、まずは……やっぱ、服だよなァ?」

ティアが今、日常生活をしていく上で最も必要とするものは何かと考えてみれば、
やはりそれは服なのではないかと思われた。
今ティアが身につけているものといえば、薄いキャミソールワンピースに
ぼろぼろで染みだらけのフードマントだ。
靴下も履いていないし、裸足で――あァそうだ、靴が無いと足の裏とか怪我しそうで危ないな。

自分の後ろに座っていて見えないので、頭の中でティアの服装を思い出していたら
服よりも優先して買う物が出て来てしまったが、まあそれは島についてから
さっさと買ってしまえば問題は無いだろう。
ティアが気に入らなければ買い直せばいいし、取り敢えずは応急処置みたいなもので構わない筈だ。

そこまで青キジが考えた所で、
ティアのぼそりと消え入りそうな声が返ってきた。

「えっと、……とりあえず一着、あると助かります…」
「一着!?」

かなりどころではなく滅茶苦茶に控え目なティアの発言に、
青キジは危うくハンドルを切って氷の道から落ちてしまう所だった。

「一着って…それ一日着たら次の日何着るの!?」

何とか落ちそうになったのを踏みとどまり、後ろに座るティアを振り返って青キジが聞いた。
めいっぱい驚愕を顔で表現する青キジに反して、
ティアはきょとんとした表情を浮かべている。

「この、ワンピースがあるから…二着あったら、十分です……?」

青キジがあまりにも不可解そうな表情をしている所為か、
何故かティアの語尾にクエスチョンマークがついて、しかもご丁寧に首まで傾げている。
しかしながらその仕草、青キジにとってはただどうしようもなく愛らしいだけで、
むしろそれはティアの主張を青キジの耳に届かなくさせるだけであった。

「二着で着回しは明らかに少なすぎるでしょ…」

若干混乱しかけた頭をなんとか平静に戻し、そしてふと青キジは思った。

これまでまともに生活してきた試しの無いティアはもしかすると――否、
もしかしなくとも、服は二着で着回すものだと思い込んできたのかもしれない。

ティアがここ数年でどんな生活を強いられてきたのかなんて知る由も無いし、
ティアが話したがらないのならば別に知ろうとも思わないが、
しかしそのたった数年の生活が、どれだけティアの人生に影響を与えるのかを考えてみれば、
それはやはり無視するには大きすぎる問題だと思われた。

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