Law
□prologue.
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「今夜は星が綺麗ね」
女は、隣に座る男の肩に頭をのせた。
「あぁ…すごく綺麗だ。珍しいね」
男は、隣に座る女の髪を優しく撫でた。
「こんな都会でも、綺麗な星は見えるものなのね。ちょっと見直したわ」
くすりと笑って、女は瞼を閉じた。
「そうだね。…でも僕は、人が多いから苦手だ」
くしゃくしゃと髪を弄って、男も瞼を閉じた。
「君の周りにとても――人が多いから」
もう一度ぼやくように言って、男はゆっくりと体を女の方に向けた。
「雄貴……」
女は、男の名前を呼んだ。
そして、自分の腹に鈍い衝撃を感じた。
「君はずっと、僕だけのものなんだ」
男は女の首に腕を回し、抱きしめる様な形で、
その腹にナイフを突き立てていた。
女は何も言わず、ただ抱きしめられたその優しい温もりを感じていた。
意識が薄れゆく女の目に映ったのは、柄しか見えないほど深く自分の腹に埋まった、
男の趣味だったアウトドア用にと愛用されていた登山ナイフだった。