Law

□ep.4
1ページ/2ページ


「あっ、目ェ覚めたんすか!?」

突然ノックも無しに部屋に飛び込んできたキャスケット帽の男は、
藍を見るなりそう叫んだ。

「……何をそんなに慌ててる、シャチ」

男はその叫びを無視し、キャスケット帽の男――どうやらシャチというらしい――に
静かに問いかける。
だがその声はやはり不機嫌そうで、それは先程の話に対して怒っていたから
当然なのかもしれないけれど、と藍は思った。

「いや、その…ベポがこの暑さで参っちゃって、浮上したいって言ってるんすけど…」

シャチが、飛び込んで来た時の勢いが嘘だったかの様に、
ぼそぼそと歯切れが悪い調子でそう言う。
藍はあまり気になってはいなかったが、言われてみれば確かにこの部屋は暖かめだった。
という事は、他の場所でもそうなのだろう。
ベポというのは人の名前だろうか、暑さに弱いタイプの様だ。

ところが、シャチのその言葉に思う所でもあったのか、男はふと何かを思いついた様な顔をすると
ベッドに横たわったままの藍に、こう提案した。

「丁度良い、お前…上に出て、外を見てみればいい」

これは恐らく、夢だと言う藍に対しての配慮か何かなのだろう。
上に出て、ということはすなわち海上であるという事だ。
海を見て何某か得られるとはあまり思わなかったが興味はあって、
しかしながら藍は、そもそも自分が動ける体ではない事を思い出した。

「せっかくのお誘いだけど…今は、動けそうにないからお断りするわ」

藍がそう言うと、男は何ら問題もなさげに、

「動けないなら抱えてやる」

と言い放った。
そして徐にベッドから立ち上がると、シャチに「浮上だ」と一言だけ言ってから、
被せていたタオルケットを剥いで藍の体を軽々と抱き上げる。

藍は、助けてもらった恩人とはいえ見知らぬ男にお姫様抱っこされてしまった事に、
少なからず驚愕の表情を浮かべる。
そうして、下から男の顔を見上げていると、男は藍を見てにやりと口角を上げた。

そこで何故男が笑ったのか藍には今ひとつ分かりかねたが、
しかし自分を救ってくれた事と言い、体を起こせない自分を気遣ってくれる事と言い、
見た目ほど悪い人間ではない様だと思われた。

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ