Law

□ep.5
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「俺はシャチ、よろしくな!」
「ええ、シャチさんね。よろしく」
「俺はペンギンだ。…よろしく」
「ペンギンさん。よろしく」
「おれベポ!ベポだよ!」
「ベポさんね。…あなたの事は、白熊だと思っていいのかしら?」
「うん、おれ白熊だから!」
「そう。よろしくね」

船の甲板で、同じつなぎを着た複数のクルー達に囲まれ、藍はそれぞれの名前を
聞いて挨拶していた。

つい先程、この船の船長である男――トラファルガー・ローがクルー達に藍を紹介し、
藍もまた簡単に自己紹介をしたのだが、それが済んだ途端にクルー達はわっと藍の
周りに集まり、あっという間に藍はクルー達の人気者になってしまったようだった。

「な、な、藍は異世界の住人だってほんとか!?ここと違う世界があるのか!?」
「ええ、私もまだよく把握は出来てないけれど…少なくとも、そうでないと辻褄が合わないから間違ってはいないと思うわ」

そして、船長の名前以外に藍が知ったことはもうひとつ。

「へぇ、そりゃすげえなァ…藍がいた世界ってどんな世界なんだ?」
「そうね…こことは全く違うわ。海賊なんて、一生の内に二回も耳にすれば多い方よ」
「まじかよっ!?」

それは彼等が、海賊だということだ。

ローが自分の名を明かすとともに、自分には海軍によって二億という賞金がかけられて
おり、その二つ名を"死の外科医"ということ、また自分は"ハートの海賊団"なる
海賊団の船長であるということを伝えたのだ。
つまりこの船が――海賊船である、ということを。

藍は、ローは医者だと聞かされていたから、もちろんその事実に驚愕した。
まさか海賊などという単語をここで聞くとは、思ってもいなかったのだ(まあ、それは
当たり前なのだろうが)。

しかし、だからといって、彼等に恐怖感を抱くなどということもなかった。

海賊なるものについてはその実態を良く知らないので判断しかねるが、彼等については
決して悪い人間ではなく、むしろ見ず知らずの人間の命を救ってくれるような、向こうの
世界でも珍しい奇特な人達だと思ったのだ。

何の見返りもなく人の命を救ってくれるような人に、悪い人はいない。
きっとそれは、誰に聞いても同じはずだ。
だから藍は、彼等の優しさに感謝して船に乗せてもらうことにした。

自分達の世界とは異なる世界の事について興味はなかなか尽きないらしく、クルー達は
自己紹介が終わってもなかなか藍を解放しようとしない。
藍も藍で、一つ一つの質問にきちんと答えてやるものだから、それがクルー達を
更に惹きつけて、未知の世界に対する好奇心を煽る結果になっているようだった。

しかし、止まぬ応酬にさすがに痺れを切らしたのか、集団の外でそれを眺めていたローが
動いた。

「……お前ら、いい加減にしろ。こいつはまだ目が覚めてから二日も経ってねェし、怪我も治ってねェ」

医者としての気持ちもあってか、ローはかなり強引に藍の腕を掴み、藍を集団の
中から引っ張り出す。
引っ張られた藍は抗わず、ただローに連れて行かれるままに歩いた。
腹の傷が少しばかり痛んだが、掴まれなかった左手で押さえて顔が歪みそうになるのを
堪える。
別段、痛みを堪える必要など無いといえば無いのだが、それでも何故だろうか、藍は
無意識の内に、痛みがあることが周囲にばれないよう振舞っていた。

「……しばらくはあんまり動き回るな、じっとしてろ。何か用があればあいつらを呼べばいい」
「…ええ、ありがとう。船長さん」

ローが藍を連れて行ったのは藍が目を覚ました時に寝かされていた
医務室だった。

「お前が何の支障もなく動けるようになれば、お前の部屋を用意する。それまでは、ここで寝起きしてもらう。食事はあいつらに持ってこさせるから、わざわざ出る必要は無い」
「……至れり尽くせりね。何だか、申し訳ないのだけれど…助かるわ」

ベッドに寝ているだけで、食事は運んでもらえるし、用事があれば誰かを呼べばそれで
済み、自分では何もする必要が無いとなればまさに“至れり尽くせり”であろう。
だが、傷は縫合してもらったばかりでまだ痛むし、ベッドから降りなくていいのは
藍にしてみればかなり有難いことであった。

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