Law

□ep.6
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「おはよう藍!」

太陽の光が窓から差し込んで船内を照らし、段々と明るくなってきたその頃に、
元気に医務室の扉を開けたのは白熊のベポだった。

ハートの海賊団クルーの中で唯一人ではない彼は、クルーの中でも人一倍気さくで
人懐こく、藍にしてみれば可愛らしい愛玩動物の様である。
ただ一点、可愛らしい外見に反して声が低いのが残念ではあるが、体が大きいのと
立派な雄熊なのとを考慮すれば仕方がない事だと思う。

「おはよう、ベポさん。今日はいい天気ね」

既に目を覚まし、体を起こしていた藍は、にっこりとベポに笑いかける。
そして、ベポが手に持っているトレーを目にすると、少しだけ申し訳なさそうな
顔をした。

「……わざわざありがとう。ごめんなさいね、手間をかけさせてしまって…助かるわ」
「何言ってるの、当たり前だよこのくらい!」

ところがベポは、脊髄反応でもしたのかというくらい藍の言葉を素早く否定する。
ベポの持つトレーが揺れて皿が落ちかけたが、寸での所でそれは回避した。

「キャプテンの命令は絶対だし、藍怪我してるのに無茶させるわけにいかないし!」

きりりと引き締まった表情でそう言うベポは何故だかとても愛らしくて、つい藍は
くすりと笑ってしまう。

「あとおれ、"ベポさん"じゃなくてベポだよ!」
「……わかったわ、ベポね」

ついでのように付け足された言葉に藍は苦笑して、しかしあっさりとベポのその
要求をのむ。
なぜこんなにあっさりだったかって、それはあまりにもベポが純粋に、"おれの名前は
ベポ"という顔をしていたからだ。
"さん"と呼ばれることを望まない人間(熊?)に、誰がそんな、嫌がらせのごとくに
"さん"をつけて呼び続ける事ができるだろう。

藍は、膝の上にのせていた毛布を除けて、ベポから差し出されたトレーをそこにのせた。
テーブルのない医務室では、ベッドの上で飲食するほかないのだ。
まあ、子供のように食べこぼしたりするつもりなどないし、もし万が一こぼれてしまった
としてもトレーがあれば何ら問題はない。

「……おいしい」

藍がまず口にしたのは、ポタージュスープ。
小さく四角くカットされたクルトンや、刻まれたパセリ入りのあっさりとした味付けだ。
特にこれといって特徴があるわけでもないのだが、
元居た世界でもあまりお目にかかれなさそうな高級感がある。

「これ、ここのコックさんが作ってるのよね?」
「うん、そうだよ!おれ達のコックはすごく料理上手なんだ!」
「そうなの…それにしても、すごいわ」

海賊団とやらは、コックもプロを雇うものなのか。
――否、“雇う”のではなく海賊団員、すなわちクルーとして、か。
なかなかに海賊というのは贅沢らしい。
スープの他は、さっくりと焼かれた小麦色のクロワッサンに、
薄くスライスされたバター、美しく盛りつけられたレタスやトマトとチーズののったサラダ。
どれもこれも一見簡素なものに見えるが、実は手が込んでいてしっかりしている。

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