Law

□ep.21
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扉を開けた途端、視界に飛び込んできたその奇妙な光景に藍がしばし黙り込んで
しまったのも無理はないが、しかしながら藍の動きが止まってしまうほど奇妙な出来事
というのも珍しく、だがこの船においてはさして気に留められもしないその光景とは、
果たして――


















「右腕があったわ」
「センキュー、藍!! 助かるぜッ!!」

何度目になるだろうか、姿を消していた藍が戻ってきて、シャチに"シャチの"右腕を
差し出した。
左手で受けとったそれを、シャチが肩口にぴたっとくっつけると、その右腕は、なんの
違和感もなしに元通りになる。

「あー、ようやく利き腕が戻ってきたぜ……悪ィな藍、手伝わせちまって」
「いいえ、私だって特にやることもないもの。このくらいお安い御用だわ」

シャチがすまなそうに苦笑いしながら言うと、藍はにっこりと笑ってまた"パーツ"を
探しに扉の向こうへ姿を消した。

ちなみに、今シャチがいるここがどこかというと、真っ昼間のお天道様がさんさんと
照りつけてくる甲板である。
本当はこんなところ、暑いし眩しいしいたくもないのだが、如何せんそうもいかない
事情がシャチにはあった。
"パーツ"と聞いて、もうお分かりかもしれないが――そう、今現在シャチの体は、ローの
能力によって細かく分断され、バラバラ状態なのである。

まあこれはただ単に、毎度のごとくローの地雷を踏んでしまったシャチがいつものごとく
お仕置きされ中なだけなのだが、実はローのこの能力によって分断された人間を
見るのは、藍にとっては初めてのことだった。
そのせいで、甲板への扉を開けた瞬間生首が日干しされているのが見えたとき、反射的に
体が固まってしまったのだ(勿論のこと、現代日本で普通に過ごしていれば生首を
見慣れているわけがない)。
ついそのまま扉を閉めかけたのだが、その途端生首が悲痛な叫びを上げ――今に至ると
いうわけである。
まあ要は、散在してしまった自分のパーツを探すのを手伝って欲しいと、生首、もとい
シャチが頼んだというだけのことなのだが。

「あとは……胴体の残りと、右足と左足ね」

船内を探し回りながら藍は、満更でもなしにこの"宝探し"を楽しんでいた。
他のクルーは仕事があってそれどころではない場合が多いので、普通、ローにバラされた
クルーは自力で元に戻るのだが、今回はたまたまバラされたシャチのところに手持ち
無沙汰な藍がやってきたので、かなり早いペースで"パーツ"達は集まりつつある。

「倉庫とかにあったりしないかしら……昨日掃除したし、埃にまみれてるなんてことはなさそうだけれど…もしあったとしたら、なんだか可哀想ね」

探すべき宝が人体のパーツというなんともシュールな"宝探し"ではあったが、藍には
ちょうど良い暇潰しとなって、結局シャチのパーツの全てが集まったころ、ベポが甲板に
おやつを持って出てきたので、三人揃って和気あいあいと、おやつの時間を堪能した。







五日前の思い出がひとつ。
 

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