Law

□ep.26
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その日の、昼前――太陽が頂上まで昇りきる一歩手前の、ローが起きるか起きないかと
いう絶妙な時間帯を迎えていたとき。

ついに、藍が指折り数えて待ち望んでいた――"終わり"の時がやって来た。














「今回は春島なんだね!」
「そうみてェだな。良かったなベポ」
「うん! 助かったあ〜」

甲板の柵に並んで肘をつき、何やら島を眺めながら話している様子の二人が気になって、
藍はすすすっとそちらに寄っていく。

「ベポ、シャチ。ちょっといいかしら?」
「あ、藍! なになに?」

ぽん、とベポの背中を軽く叩けば、ベポはくるりと振り返ってにこやかにそう言った。

島に上陸するのが楽しみなのか、いつもよりテンションが高めらしい。
くるりと振り返ったときの表情もその言葉も、いつもよりかははしゃいで聞こえた。

「今"春島"って言ってたけれど…春以外に、夏、秋、冬の島もあるのかしら?」

未だこの世界についてはほとんど知らない藍にとって、"春島"という単語は初耳である。
ならばここで疑問を持つのも、至極当然のことと言えるだろう。

日本の季節といえば、春夏秋冬だ。
春がくれば夏に向かい、秋が終われば冬が来る。
それは日本に生まれ育った藍にとって絶対的な感覚であり、かつ決して疑うことのない
絶対的な事実であったのだが、こちらの世界に来てそれは崩れた。

暖かかったはずの空気が突然ヒヤリとした冷たい風に変わったり、空に見えていた太陽が
隠れてしまったと思ったら吹雪になったり。
とにかく、こちらの世界の気候はデタラメなのだ(まあ気候に限らなくとも、生物から
何から、全てにおいて言えることなのだが)。

日本においての"常識"など、この世界においては全くの無意味――それを知った日から
藍は、何か初めて聞くようなことがあれば、必ずクルー達に尋ねて確認するよう
心掛けていた。

「うん、そうだよ! 春島、夏島、秋島、冬島っていって、それぞれ季節が別れてるんだ。もちろん、それ以外の島もあるけどね。でも基本的に島の季節は、この四つのうちのどこかに入るんだよ」
「春夏秋冬で区別された島には、その季節しかないの?」
「うん、だからこの島はずーっと春のまんまなんだよ!」

おれ暑いの苦手だから助かったー、とベポが言って、シャチがベポの横腹をつつく。
ほんと、モフモフ具合ハンパじゃねェもんなお前、とシャチが言うのを聞いて、
そういえば日本でも白熊は北極にいるものだったと、今更ながら藍は思い出していた。


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