Clap logs
□log*8
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「私、夜明けを見るのが好きなの」
いつの話だったか、もう忘れたが――確かあいつがそう言っていた。
「夜明けは世界の始まりよ。海から生まれた太陽が、世界を照らし出すの」
恍惚の表情で海を眺める彼女は、何だかそのまま朝焼けの光に溶け込んで消えてしまいそうだった。
「世界を照らす太陽を生むのは、海。だから海が、この世でいっちばん偉大なの」
大きく手を広げて、くるくる回り出す。
「だから私は、海が好き」
たんっ、と軽い足音一つでも、ただ波打つ音しかない甲板ではとてもよく響く。
「海から生み出された私達は、海へ還るのよ」
ざぶんっ。
ひときわ大きい波が、船体を揺らす。
「だから、ロー」
彼女の顔が、逆光で見えなくなる。
「私が死んだら、海に沈めてね」
ざぶんっ。
また波が船体を叩いた。
「そしたらきっとまた海から生まれて、もう一度あなたと出逢うわ」
――さて、おれは一体、何と返事をしたのだろう?
記憶にはないが、その後、眩しい笑顔で彼女は言った。
「母なる海は、偉大なのよ? そのくらい訳ないわ」
――どうやら彼女は、死んでもまた生き返るつもりらしい。
彼女がいつも、馬鹿の一つ覚えのように海にざばんざばん飛び込む理由が、その時やっとおれにはわかった。
いわゆるマザコン。