Law
□ep.4
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「……本当に……海」
「……逆に、海じゃなかったら何なんだ?」
海上へ浮上した船の甲板で男に抱きかかえられた藍は、
見渡す限りの海に驚きを通り越して軽く感動すら覚えていた。
藍の呟きに男は苦笑している様だったが、
藍にとっては自分が居るのが海の上であるという事など当たり前ではなく、
ここ最近――少なくとも数年は海を目にしていなかったから、
何となく懐かしさも手伝って、感慨に浸ってしまったのだ。
「……さっきの話だがな」
唐突に、男はそう切り出してきた。
「…お前がさっき話した事で全部なら、今俺達のいる此処と、お前がいた所じゃ明らかに世界が違う」
先程男に話をした時、男は何も突っ込んで聞いてこなかったから、
今その話について聞かれる事には何ら疑問は無かった。
そして藍は今、自分は夢の中ではなく――その“明らかに違う”世界の中にいるのだと、
何故だろうか、そう納得していた。
「俄かには信じ難いが、お前が狂ってる様には見えないからな」
そして恐らくこの男も、それを理解しているのであろう。
「……不思議な事も、あるものね」
そう呟いた藍に男が笑った様な気がしたが、藍にとって男の反応はあまり大した問題ではなく、
寧ろ今はただ、目の前に広がる海を眺めていたかった。
自己紹介は、その後で。