Law

□ep.5
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出入り口からゆっくりと歩き、藍は綺麗に整えられたベッドに腰かける。
腹の傷にかかっていた負担が軽くなった所為か、無意識のうちにほっと息を
吐いていた。

「……傷が痛むなら無理するな。そんなんじゃ、治るもんも治らねェぞ」

藍を窘めるかの様に、ローは扉に体を預けたままそう言った。

相変わらず馬鹿みたいに長い刀――ローが刀だと教えてくれた――を肩に担いでいるの
だが、見慣れていないはずの刃物なのに何故だろうか、不思議とその刀は藍に
圧迫感を与えない。
もちろん、それを持つローに攻撃の意志が全くないことも理由の一つなのだろうが。

そんなことに気を取られながらも、藍はにこりと笑みを浮かべて、

「…大丈夫よ。心配してくださって、どうもありがとう」

そう返事しておいた。
だがどうもそれが気に食わなかったようで、ローは眉間に皺を寄せる。
藍の腹部の辺りをじっと見つめると、はぁ、とひとつ溜息を吐いた。

「……お前の傷の状態を、俺が分かってないとでも思うのか? 縫合したのは俺だ、無理してんのを隠そうとしたところですぐに分かる」

どうやら、痛みを堪えていた事も、全然"大丈夫"なんてことはない事も、全てお見通し
だったようだ。
まあ言ってしまえば、自分は重傷の入院患者で彼はその担当医の様なものなのだから、
より体の具合を把握してるのがどちらかなど言うまでもないだろう。
藍は、困った様に笑って見せた。

「…ごめんなさい、もう嘘はつかないわ」

そう謝ると、ローは「それでいい」と一言だけ言って部屋を出た。

一人だけになった医務室、ベッドの上に、ごろりと藍は横になる。
実はその横になる瞬間が、腹筋に力が入るので一番辛いのだが、こればかりは
どうしようもないので仕方がない。

「…………」

腹部の傷に手を当てて、藍はじっと天井を見つめていた。

じくじくと、傷が疼いている。
完全に閉じられたはずの傷口が開いて、じわりと出血している様な感覚があった。
それは錯覚なのだと分かっていても、何故か現実に痛んでいるように感じられて、藍は
顔を歪ませる。

眠りたいと思うのに、いつまでも傷は疼いていて、結局その日はベッドの上で小さく
丸まっているしかなかった。







その痛みは、何の痛み?
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