長編

□俺と君とが歩く道 6
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こんにちは、皆さまの心のオアシス、忍足侑士です。

・・・え、何、気色悪い?すまん、ちょっと言うてみたかっただけや。


いやな、さっきめっさええことあってん。
んふふ〜、なんやと思う?なんやと思う?

実はなー、優恵ちゃんに「テニス教えて」って頼まれてしもたんやっ。


何でかって言うとな、再来週、球技大会があんねん。
球技大会言うたら、大体がバレーボールとかバスケとかドッヂボールとかサッカーとか、そういう競技をやるんやろと思われがちなんやけどな、氷帝はちゃうねん。

氷帝は、自分の入っとる部活以外の球技やったらなんでも出来るんや。
せやから、人数が集まればペタンクやって出来るんやで。
ゲートボールとか、ゴルフとかも恐らく出来んのとちゃうやろか。

もちろんさっき言うた様な競技もあんねんけど、この氷帝学園の球技大会でテニスが入っとらん訳もなく。


こないだクラス会議で出る種目決めとったら、バレーボールとバスケは身長的に駄目、ドッヂボールはボール投げるの下手やから駄目、サッカーは足遅いから駄目、その他諸々も色んな理由で駄目んなった優恵ちゃんが、
「じゃあテニスならセーフなんじゃない?」
とか言われてテニスになって、今に至る。
なんでテニスやったらセーフやねんって思たけど。


ちゅーことで、今日は部活が休みなんやけど、跡部に頼んで学校のテニスコートを借りてます。


「ええかー優恵ち
ゃん、とりあえず一回見よう見まねでラリーしてみるでー」
「あ、はいっ!よろしくお願いします忍足先生!」

俺がそう言うとぺこっとあたまを下げながら、俺のこと『先生』なんて言っとる優恵ちゃん。

「先生て、なにもええんやでそんなん」
「いいの、だって教えてもらう身なんだし、教えてくれるのは忍足なんだから、ちゃんと先生って呼ばないとっ」

なんやそれ。
でもまぁ、それが優恵ちゃんの真骨頂なんやけど。
それにかわええし言うことなしやし、今回は許したろ。

あれ、かわええんはいっつもか。

「まぁまた変なこだわりやなぁ?」
「そんなことないもん!
ってことで、先生始めましょう!」

なんや、優恵ちゃんのテンション超高いんやけど。
ずーっとにこにこしとるし。
楽しいんかな。そう思ってもらえとるなら嬉しいわ。

「ほな、行くで」
「はいっ」

ぽーんと、出来るだけ優しーく、返しやすいように優恵ちゃんの持っとるラケットめがけて球を打つ。

「よ、っと」

それを、肩に力がめちゃくちゃ入りまくりの優恵ちゃんが頑張って返す。

「っ」
「うっ、しょ」
「っ」
「はわ、あ、セーフ?」
「大丈夫や、俺が先生やねんから」
「あ、そっか、なら大丈夫だね」
「せやせや、安心し」



・・・うーわっ、優恵ちゃん飲み込みごっつぅ早い。

優恵ちゃんも慣れてきたのかこうやってお喋りしながらやっとるけど、実はちょっと難易度上げたり球のスピード上げたりしとる。
せやけど全然動じてへん。
それどころか、涼しい顔してバックハンド使とるで。

やっぱり演劇部期待のスーパールーキーは、真似するのも上手いんかな。
何事も人の真似からー言うしなぁ。あの言葉もあながち間違うとらんのかもしれん。

「優恵ちゃん、上達速いなぁっ」

ちょっと強めの球を打つ。


「まぁ、いっつも忍足が練習してるの見てるからねっ」


「・・・え」


とんっ、ころころころ・・・

優恵ちゃんの発言に、呆気に取られてしまう。


え、今何て・・・


「お、俺だけ?」
「へ?・・・あっ、違う違う、忍足達が練習してるの見てるの!」
「あ、そうなんか・・・」

びびった、なんや俺だけやないんか・・・。

「俺だけが良かったんやけどな・・・」
「何忍足・・・あ、忍足先生っ」
「いまさら思い出したんかいな」
「い、いーじゃん別にっ」

俺の呟きは、優恵ちゃんがふと思い出した先生ネタによってかき消された。

うーむ、どうも気になるな。
まぁ、別にええか。
今ものごっつ幸せやし。

あー、このまま優恵ちゃんとずーっと練習してたいくらいや〜っ。


と、俺が思っても中々人生っちゅーもんは甘くなく。
楽しい時間はあれよあれよという間に進んで行き、気がついたら夕方になっとった。


「うはー、疲れまくったー」
「疲れまくったーなんて日本語ないと思うで」
「いいの、本当に疲れまくったんだから」
「それはお疲れさんでした」
「忍足は疲れてないの?」
「まぁ、ちょっとは疲れたけど、そこまでではないわな」
「んー?それってあんまり疲れてないよね」
「そういうこっちゃ」

ほっぺたピンクにしながら、なんで?という顔で俺を見上げる優恵ちゃん。

・・・あかん、今すぐ抱きしめてちゅーしたい。
自分は小動物かっ、ちょ、首かしげるな、かわええからっ。

って、いやいやいや、そっちのがあかんやろがっ。

優恵ちゃんは他の女共とはちゃうねん。
大事に、大事にしたいんや。
ちゅーか、付き合うどころか告白すらしとらんし。
あー、はよう告白したい。
でもなぁ、断られたら嫌やなぁ・・・

「・・・たりっ、忍足っ!」
「・・・・んぁ、なんや」
「なんやじゃないよ、私の話聞いてた?」
「これっぽっちも聞いてへんでした」
「微妙に間違った関西弁使ったってごまかせませんっ。
もう忍足なんて知らないっ」
「あ、ちょ、優恵ちゃん」
「ふんだ」

ピンクになっとったほっぺたを今度はぷくっと膨らませて、俺に背を向けずんずん歩いて行く小さな影。

ええもん、そっちがその気なら俺にだって考えがある。

「そないなことしてえぇんかなー。
まだ大会まで日は長いけど、もう教えてやらんかなー」
「え、あ、それはやだっ・・・って、あれ、前もこんなことあったような」
「そんだけ自分は単純っちゅーことや。
で、一体俺に何の用やったん」
「あ、あのねっ、そのことなんだけど・・・」



恥ずかしそうに顔を俯かせる優恵ちゃん。





・・・あ、お、こ、これは、もしかして・・・アレか?


もしかして、この場で告白ーなんて・・・
それはそれでええけど、それやったら俺の人生設計台無しやん!
優恵ちゃんには俺から告白するって決めとったのにっ。
ってか、優恵ちゃん俺のこと好きやったんか?
さっきの悶々とした俺の脳内会議はなんやったん。


あかん、これはあかん、嬉しい。



「私、その・・・」
「え、ちょお待って、俺まだ心の準備が」




待って待って待って、あかん、ストップ、不意打ちにも程が・・・





「私・・・」
「優恵ちゃ・・・」

待っ・・・


















ぐうぅぅぅ〜・・・・



















「え」












「その・・・お腹、空いちゃって。
どっかちょっと寄って何か食べたいなーって・・・あー、何か食いしん坊みたいで恥ずかしいっ」
「・・・ぅ、えっ、ええよ、どっかいこ」
「いいの?やったーっ!」

わーいっとばんざいする優恵ちゃん。




・・・お腹空いたの言うん恥ずかしかっただけかいっ!!!!


あーっ、ドキドキして損したっ。




・・・せやけど、やっぱり可愛かったなぁ優恵ちゃん。
あんな顔で「好き」なんて言われたら、男はイチコロやで。

あ、でも他の男には絶対見せへんで。
今のは俺だけの優恵ちゃんの顔や。
ぜーったい死守したる。
彼氏とかやないけど、今はまだ。

「ファミレスにでも寄るか?
パフェ二人で半分にしたら丁度ええやろ」
「忍足甘いの大丈夫なの?」
「優恵ちゃんとやったら食える」
「なにそれーっ」

なんや、付き合うとるみたいでええな、この会話。

球技大会までまだまだあるし、毎日楽しそうや。
いつもより三割増しでな。
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