長編

□俺と君とが歩く道 7
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中々おもろかった球技大会も終わり、さぁ中間テストや!そんな空気に学校中が包まれ始めた、ある日のこと。



「おー、しんど。
なんや最近ちょいちょい暑うなって来よったなぁ岳人」
「そーか?俺はあんま気になんねぇな・・・。
侑士の髪の毛がもっさいからじゃねーの」
「そんなわけあるかいな。
岳人よりは涼しげな髪色しとるっちゅーねん」


朝練終わりにうだうだと岳人と話しながら玄関に向かう。

あー、髪の毛切ろうかな。
でもなぁ、時々優恵ちゃんが三つ編みして遊ぶから、切るワケにもいかんなぁ。



「あれ、優恵と詩織?
あいつら何あんな所でおろおろしてんだよ」
「おん?
・・・ほんまや。何かあったんやろか」


生徒の大多数はもう教室に入っとる時間やのに、なんでや。

遠くてよう見えんけど、なんやもの探ししてる様に見える。



「優恵ちゃん、こないなところで何してん」
「おっ、したりっ」


俺が肩をぽんと叩くと、振り返った優恵ちゃんの目にはうっすらと涙が光っとった。


「優恵!?
おっ、おい、何でお前泣いてんだよっ」
「落ち着きや岳人。
優恵ちゃん、一体何があったんや」
「上履き、ない・・・」
「上履きやて?」
「昨日、ちゃんと入れて帰ったはずなのに・・・」


そこに別の所を探していたらしい詩織ちゃんも混ざる。


「隠されたみたいで・・・
ほら優恵、泣かないの」
「だって、お気に入りだったんだもん・・・っ」


氷帝は地の色が白ければ上履き自由やから、みーんないろんなの履いとる。

優恵ちゃんは他人よりも足が小さいから探すのに苦労する。
せやけど、苦労して探したからこそ選んだ靴はめちゃくちゃ気に入るし、大切に履く。


「前にもあったんか」
「ううん、これは今回が初めて・・・」
「跡部のときより酷い、か・・・」
「侑士、どうすんだよ」
「とりあえず跡部に頼むか。
詩織ちゃん、連れて来てくれへん?
跡部もまだ部室にいるやろ」
「なっ、なんであたしが!」
「ええやろ、損はせぇへんし」
「う・・・・わっ、わかったわよ」
「岳人も、行って来」
「おうっ」



とりあえず、今は優恵ちゃんのメンタル面をカバーしたるのが最優先や。


「なんか、心当たりあるか?」
「ううん、無い・・・あ、でも」
「でも、なんや」
「忍足のファンクラブの子が、最近嫌味とか言ってくる・・・かも」
「嫌味・・・どんなん」
「よく言われるのは、『ちょっと演技が上手いからって調子に乗ってる』とか、『前から自分だけテニス部の人たちと仲良くしようとしてる』とか、『特に可愛くも無いのに、忍足くんにつきまとってる』とか・・・」





なんやそれ。


個人的には優恵ちゃんが可愛くないとか言われとることに腹が立つんやけど。





優恵ちゃんは言い返したらしい。
嫌なことは嫌って言わんと収まらん。

それに、本人も陰口とか嫌いらしいねん。



演技のこと言われたときは、

『なんで舞台にまともに立ったことも無いのにそんなこと言えるの?
舞台に立った時の、あの緊張とプレッシャーを知らないからそんなことが言えるんだよ』




自分だけ仲良うしようとしとる言われたときは、

『だって、一緒にいると楽しいんだもん。
なんなら、そっちだって仲良くしたいって言えばいいじゃない。本当、口ばっかりで度胸ないよね。
女は愛嬌って言うけど、最近は度胸も無きゃ駄目だよ』




俺につきまとってるー言われたときは、

『つきまとってない。
忍足は大事なお友達だから。
ってか、つきまとってるのはそっちなんじゃないの?
その方が性格的に可愛くないよ』




相手方は反論も出来ん。


だって優恵ちゃんは正論しか言うてへんから。


だいぶ棘のある言い方やけど、効果はてきめんや。




友達のくだりは俺もがっかりしてんけど、今はええ。とりあえず。




「でも、言い返せば言い返したでまた新しい悪口考えてくるし・・・」




挙げ句の果てには『ブス』らしい。




「もう、どうして良いか、わかんないよ・・・」





俺の制服の裾を掴んで、涙を流す優恵ちゃん。






・・・なんやねん。


なんやねんほんま。





誰や、俺の大事な、大事〜な優恵ちゃんを泣かせる奴は。




俺のファンクラブ?笑わせてくれるなぁ。




俺のファンの名を騙るなら、俺の気持ちを考えろや。





「優恵ちゃん」
「・・・忍足っ」
「安心せえ。
俺がなんとかしたる」
「でも、それじゃ忍足に迷惑かかるし・・・」
「そんなんどうだってええ。
ええか、優恵ちゃん」



俺は優恵ちゃんの頭を撫でながら、言い聞かせるように優しく説明する。



「俺はな、嫌やねん。
俺は優恵ちゃんの事が大事やから、大事なお友達やから。
そんな子を悲しませる様な奴が憎いんや。
さらに、それが俺のファンだなんだかの名を騙っとんのも気に食わん」


「せやからな、迷惑なんてなんもかかっとらん。
俺がやりたくてやっとることや」


「迷惑やないから、暫らくの間、優恵ちゃんは俺から離れんで」


えっ、とでも言いたそうな顔をされる。
まぁ、当たり前か。


「でも、そんなことしたら、忍足にまで・・・」
「俺たちは仲良しなんやろ?
仲良しが一緒に居て何がおかしいんや」
「だけど、そうしたら、きっと忍足が私と付き合ってるって思われちゃうかもしれないし、」
「そう思われたら思われた時や。
今は考えんでもええ話やで」
「・・・うん」



よかった、ちょっと安心した様やな。


「侑士!跡部連れて来たぜ!」
「ほら跡部、走って!」
「うるせぇな、走ってんだろ」


「やっと来たか」
「佐藤と向日からだいたい話は聞いた。
上履きを隠された、か・・・」
「そや。しかも、犯人は俺のファンクラブと来たモンやで」
「・・・厄介だ。
仕方ねぇ、おい樺地!」
「ウス」


わ、何処から出て来てん樺地。

それを聞いたらお終いやろから聞かんけど。


「こいつの足にピッタリ合う靴を持って来いとミカエルに伝えろ。
優恵、サイズは」
「笑わない?」
「笑わねぇから早くしろ」
「22.5・・・」
「わかった」
「ウス」

聞くや否や何処かに行く樺地。

ほんま何処や。気になる。


「これで、残りは犯人探しだな」
「あ、跡部っ」
「気にすんな。好きでやってんだ」
「うん・・・」
「佐藤、手伝え」
「はぁ!?」
「お前が居ねぇと出来ねぇ事なんだよ」
「・・・わかったわよ」
「向日は情報収集だ、日吉にも言って手伝わせろ」
「情報収集ってスパイみてぇ!」

「忍足」
「なんや」
「お前は、優恵を守れ」
「ええんか」
「居ねぇよりは居た方が良いだろ。
多少マイナスにはなるかも知れねぇが、そこはお前の腕の見せ所だ」
「そやなくて」
「あ?・・・あぁ、方向は違えど守ってんだろ。
次に集まるのは昼休みだ。昼飯食いながらそれまでの出来事を報告しろ。
よし、解散だ」


こういう時、不覚やけど跡部はほんま頼りになる。


「あ、樺地。
靴・・・持って来てくれたの?」
「ウス」
「なんや、随分早いなぁ」
「とりあえず履け」
「うん。ありがとう、樺地」
「ウス」
「跡部も。ありがとう」
「気にすんな」
「ほんなら、行こか」
「うん、行こう」


声色は明るいけど、やっぱまだ不安そうな顔や。
俺の服の裾も掴みっぱなし。



安心しぃや。




俺が絶対、守ったるから。
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