長編

□俺と君とが歩く道 8
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事の発端は、ある土曜日の、跡部のなんでもない一言やった。


「忍足。明日、練習試合の打ち合わせに行くんだが、お前も来るか」
「立海にか?」
「当たり前だろ。
俺様一人でも良いが、部の立ち位置的にお前も連れて行こうかと思ってな」
「立海?」


部活が休みやからって前に言っとったマネージャーのピンチヒッターをしに来とる優恵ちゃんが反応した。


「ねぇ跡部、それって私も付いて行っちゃだめかな」
「知り合いでも居るのか」
「うん、お友達がいるの」
「優恵ちゃんは別に邪魔とかせぇへんし、ええんやない?」
「・・・まぁ良い。
練習試合は来週の日曜なんだが、その日も手伝いに来るなら許可してやる」
「わかった、行く!」
「じゃあ、明日の8時30分に制服で校門前。
車は俺様が用意する」
「いいなぁ〜、優恵ちゃん、あとべの家のリムジン乗れるんだね〜!」
「そんなにすごいの?」
「あったりまえだC!
シートなんてもうふっかふかで、思い出しただけで、ねむたく・・・ぐぅ」


ジローが寝てもうた。
まぁ、ソファの上やし大丈夫やろ。

「なんか要るモンあるか?」
「いや、無いな。
心配なら鞄と財布位持ってきゃいいだろ」
「わー、私テニス部に入ったみたい!」
「中々部外者やったらでけへん体験やもんな?」
「うん!すっごく楽しみっ」
「それはよかった」
「ったく、遠足じゃねぇんだぞ」


はしゃぐ優恵ちゃんを後目にふと、優恵ちゃんは立海に友達おったんやなーなんて思う。

優恵ちゃんのお友達ー言う位やから、女の子やろか。

あ、俺は優恵ちゃん一筋やさいな。他の子なんて、ひじきが生えた大根に見えるで。


「ねぇ忍足、お菓子買いに行こう!」
「だから、遠足じゃねぇっていってるだろ」
「ええやん、お菓子の一つや二つ。
なー?」
「・・・はぁ。お前はつくづく優恵に甘いな」
「甘くて大いに結構です。
ほんなら、後でコンビニ寄ろな」
「あ、コンビニじゃなくてスーパーが良い!」
「なんでや」
「だってスーパーの方が安いし、種類いっぱいあるし」
「主婦目線かいな」



そっちの方が優恵ちゃんらしいとは思けども。

あー、熱弁しとる優恵ちゃんもかわええっ。
ちっこい手をぐって握りしめとるんやで〜。
し、か、も、俺の片手で包み込める位のサイズ。

なんや、ほんまに小動物みたいやわぁ〜。


「先輩方、何のお話ですか」
「内緒や」
「忍足さんが内緒とか本当に気持ち悪いです」
「そう言うお前も可愛げないっちゅーねん」
「あれ、若?」


日吉の立ち位置からは俺の影に隠れる優恵ちゃんがひょこっと顔を出す。


「優恵先輩っ」
「なんや日吉、自分優恵ちゃんがおること気づいとらんかったん?」


日吉を追い詰める為ににやにや笑いを浮かべてみる。


「いえ、気づいてました。
タオル取りに来ただけなので、失礼します」


よっぽど恥ずかしかったのか、日吉はぴゅーっと居なくなってしもた。


「若って、部活の時いっつもあんな感じなの?」
「逆に、委員会の時はあんなんやないんか?」
「もうちょっと物腰柔らかいよ」
「あの日吉が・・・」


・・・あかん、あんまり上手く想像でけへん。



「おい、忍足もそろそろ練習に行け。俺は今月の決算の最終チェックをしてから行く。
優恵も、タオル干しとドリンク作りに行け。
ジロー!お前も起きろ!」
「ほなな」
「はーいっ」
「・・・・むにゃ」

優恵ちゃんと一緒に部室を出る。


「今日は練習が午前中だけでラッキーやったなぁ」
「そうだ、お買い物のついでにお昼も一緒に食べようよ」
「ええね。どこがええ?」
「うーん・・・お仕事しながら考える!」


お仕事、やって。
うちの女子マネ共は殆ど男目当ての奴らやから、こうやって真面目に仕事しようとかそう言うのは極々、ごくご〜〜く一部やねん。

せやからこういう子がおると、めっちゃ助かる。


「仕事大変やと思うけど、頑張ってな」
「ありがと。
忍足も練習頑張ってね!応援してるからっ」
「おおきに。ほな、後でな」
「後でね〜」


優恵ちゃんが、さっきまで握り拳を作っとった手をいっぱいに広げて、手を振りながら見送ってくれた。


さて、楽しいお買い物(をしとる可愛え優恵ちゃんの笑顔を至近距離で拝む)為に、今日も練習頑張るで。
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