長編

□俺と君とが歩く道 5
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でっかいガラス張りの水槽に向かって優恵ちゃんが走って行く。

かわええ〜っ。

かわええ〜・・・けど。


けど。


「うわ、魚がかたまって泳いでる!」
「そう(やな)(だな)(ですね)」

・・・・。

「エイでっかい!」
「そう(やな)(だな)(ですね)」

・・・・。


「・・・ね、3人共、なんでそんなにギスギスしてるの?」
「そう(やな)(だな)(ですね)」


ー10分前ー

滝の出した「グループの中でグループに別れる」という案は忍足の予想に反して好評だった。

「なぁ岳人、ジロー、久しぶりに3人で歩かねぇか?」
「お、久しぶりにそれも良いかもな」
「宍戸さん、俺もお供してもいいですか?」
「あぁ、いいぜ長太郎」
「もしジローが寝たときの為に、樺地も連れていかなきゃ駄目だね」
「あとべ、大丈夫?」
「なんだよ、俺は樺地が居なきゃ何も出来ねぇって言いたいのか」
「じゃあ良いよね?」
「・・・ちっ、勝手にしろ」
「じゃあ決まりな!」
「同じ2年だけど、樺地とはあんまり一緒に歩かないから、なんだかわくわくするな」

幼なじみトリオと二年生(鳳・樺地)、そして滝のグループが出来る。

となると、言わずもがな、後の三人が残る。

滝の作戦はこうだった。
まずは、日吉と跡部を無理やりペアにして、それから優恵と忍足をペアにすれば、誰にも邪魔されずに二人の時間を楽しんでもらえる、という寸法。
中々策士な滝であった。

さて、ここまでくると後は跡部と日吉をペアにしてやるだけである。

「ねぇ、日吉は跡部に誘われたんだよね?」
「そうですけど・・・あ」

しまった、という顔をする日吉。
それを見て日吉に向けてにっこり笑う策士・滝。
この勝負、策士・滝の勝利と誰もが(というか滝と日吉が)確信した。

「じゃあ跡部と日吉でペアね
で、優恵ちゃんは忍足と・・・」

と、ここで、策士・滝の予想外な事態が起こった。

「え、ちょっと待ってよ滝」
「何?優恵ちゃん」
「私、若に青いキャラメル食べてもらうんだけど」

誤算だった。今日の朝に優恵は日吉に青いキャラメルを食べてもらうと言っていたのを策士・滝は忘れていたのだ。
これでは優恵と忍足をペアに出来ない!

日吉にとっては絶好のチャンスとも言えるこの発言に、予想通り日吉は食いつく。
そして策士・滝に対して爆弾を投下していく。

「あぁ、そう言えばそうですね。
仕方ない、この際優恵先輩の言うことを聞きます。
と言うことで滝さん、俺は優恵先輩と行きます。
あと、俺とペアにさせられた跡部さんも一緒に行きますよね?」
「当たり前だ」

口の端で策士・滝にしか見えない様にニヤッと笑う日吉。

「なので。
それで良いですよね?滝さん」

これには策士・滝にも打つ手が無く、ただ断れずに首を縦に振るしかなかった。

だが後からよくよく考えてみると、こっちの方が面白かったことに気がついた策士・滝。

「やっぱり忍足には少しぐらいピンチな出来事があった方がいっか」

どこまでもマイペースな策士・滝であった。


そして、今に至る。



ちっ、滝の奴図りやがったな。
失敗した感もまぁ無くは無いけど。

俺ら・・・俺と跡部と日吉と優恵ちゃんでグループにさせられてん。

絶対あいつ仕組んだであの野郎。帰り道タダじゃおかんで。

あいつ、恐らく俺と優恵ちゃんをペアにしてくれようとしたんやろけど、ちょーっと読みが甘かった様やな。
優恵ちゃんを嘗めすぎやっちゅーねん。

優恵ちゃんはな、よーわからん所で皆が忘れてる様なこと言い出すんやで。よう覚えとき。

その辺、俺のが優恵ちゃんについては一枚上手らしいな。ふっふーん。

・・・て、何脳内で勝手に自慢大会開いとんねん俺。
あかんあかん、まずは目の前の事態にしっかり向き合わな。

・・・ん、なんや、日吉と優恵ちゃんがなんか話しとる。

「優恵先輩、なんか後ろから見てると危なっかしいんですけど。
ちょっと水槽から離れたらどうですか」
「大丈夫だよ若、あんまり先輩を馬鹿にしないのっ」
「じゃあ予言しますけど先輩、あと10秒以内にぶつかりますよ」
「え、なににうわぁっ!」
「俺に。
言ったそばからぶつかってるじゃないですか」
「あ、ごめ、てか若、近・・・」
「全く、俺がちゃんと受け止めてなかったらどうなってたことか。
これからは気をつけて下さい」
「は、はい・・・っ」


ちょっ、おいおいおい!
なーにが『は、はい・・・っ』や!!
ってかなんで優恵ちゃん顔赤なってんねん!!
まぁ確かに日吉は俺から見てもかっこええけど・・・ってちゃうちゃう!!
とりあえず日吉はその優恵ちゃんに触っとるその手を離せっちゅーねん!

あー、めっさイラつくっ。
日吉の奴もしばいた・・・うわぁ。

横で跡部もめっさイライラして・・・跡部の目ぇ怖っ!
絶対こいつ眼力つこてんで。
あかん、日吉はよ優恵ちゃんから離れ、そんで逃げ!
跡部確実に自分に氷ぶち込もうとしてんで!

そんな俺の思いが通じたか、危険を察知したか(多分両方)、すっと優恵ちゃんから離れる日吉。

跡部、気づいてへんかもしれんけど、今ここで氷ぶち込んだら自分確実に優恵ちゃんにも被害被らせるところやったで。

うーん、にしても思ったより空気がギスギスしとるなぁ・・・。

よし、ここは一番おとなーな俺が、ちゃーんと空気変えていかんと。

「なぁなぁ優恵ちゃん、そろそろ売店にでもいかへん?
日吉に青いキャラメル食べてもらうんやろ」
「あ、そうだねっ!そうそう、自分から言って忘れてた〜」
「じゃあ行くか。・・・おい優恵、売店はそっちじゃねぇ」
「え、だって地図・・・」
「その地図、逆さまですよ。
本当に、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫だしっ!
ほら行くよ若っ、キャラメル毒味してもらうんだから!」

つかつかと歩いていく優恵ちゃん。
まーた顔真っ赤にして拗ねとる。ほんま、可愛いやっちゃな。
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