短編
□スイートケーキ
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穏やかな陽射しの中、銀時はケーキ屋に向かって歩いていた。
陽射しを受け、キラキラと輝く銀髪の下にある目はいつもの死んだ魚のような目ではなく、やけに楽しそう。
どうやら、買うケーキを何にするのか考えているみたいだ。
「………あれ?」
不意に立ち止まった銀時。その視線の先には例のケーキ屋。さらによく見ると、黒い着流しの漆黒の男の姿。
その男は、ケーキの入ったショーケースの前で、佇んでいた。
そんな男を見て、顔を微かに綻ばせた銀時は、何食わぬ顔をしてケーキ屋へ再び一歩踏み出した。
「いらっしゃいませ〜〜」
店に入ると聞こえた挨拶を聴き流し、ちょうど注文していた男へと向かう。男も気づく様子は、ない。
「それと…じゃあそのチョコケーキで。」
「あと、苺タルトも追加ぁ〜」
後ろから唐突に聴こえた、聞き覚えのありすぎる声に、慌てて振り向いた男ーー土方は、してやったりとばかりに不適に笑う銀時を見て、一つ溜息を吐いた。
「何やってんだ銀時。」
「いや別にィ〜?土方クンの姿が見えたから声かけただけだけど?」
「人の許可も取らずに追加注文するのは、声をかけるなんて言わねーよ!」
土方の鋭いツッコミに銀時は笑い声をあげ、言葉を続けた。
「ちっちゃいことは気にしない気にしない。で何、俺のため?」
「気にしろよ。…ああ、これから行くつもりだったからな。」
「あら素直。」
そんな他愛ない会話を交わしながら、銀時はケーキ無料券を差し出した。
「……は?どうしたんだよ、それ。」
「依頼でもらった。俺のケーキだろ?期限今日までだし、使えよ。」
「おっ、おう。」
そうして、ケーキを受け取り外に出ると、土方がすたすたと歩き出す。
陽射しに当たっても変わらない漆黒。
その後ろ姿に、銀時は無意識に口角を吊り上げた。
「何笑ってんだ、置いてくぞ。」
「分かってる。」
これは、とある暖かい日のこと。
end