短編
□お願い、あと少し
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俺の目の前にある黒い"無機物"
もう二度と鳴ることはない。
もう二度と届けることはない。
もう二度と、繋がることはない。
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「久しぶりだな、銀時。」
「……あぁ。」
数週間振りに顔を合わせた土方の目の下にはうっすらと隈が見える。
それは、ここ最近の土方の忙しさを強く物語っていた。
「どうなの、最近。」
「あ?…そうだな、まぁまぁってところか。」
嘘。『まぁまぁ』の忙しさで隠しきれる隈が出来るわけがない。俺に心配をかけまいとついてくれてる嘘だとは分かっている。でも、嘘をついてまで付き合うなんておかしくねーか?俺だったら耐えきれねーよ。テメーもこんなの耐えきれねーだろ?俺たちは“似た者同士”なんだから…
「銀時、話があるんだ。」
改まったように声をかけてくる土方。話?ちょうどいいや、俺もあるんだよ。たぶんテメーと一緒だ。
「マジでか。俺もあるんだよ、俺から話させてくんね?」
「いいぜ。」
俺は、死んでも土方の口から聞きたくない言葉がある。でも今は、土方にとってそうすることが一番いい。
ならせめて、俺から言わせてほしい。
「別れようぜ、土方。」
「……は?」
「別れようっつってんの。」
「何でだよ!」
銀時がもう一度繰り返した言葉に土方は語気を荒げ、詰め寄るように理由を聞いてくる。
「飽きたんだよね、お前と付き合うの。」
我ながら最低な理由だと思う。それに、こんなことをスラスラ言える俺も最低。
「俺さ、元から飽きっぽいんだよ。熱しにくく冷めやすいっての?男との付き合いもそれなりに楽しかったけど、銀さんそろそろ女ともヤリたくなったの。突っ込みたくなっちゃったんだよね〜」
思ってもいないことを吐きだす俺の口は止まらない。
でも、突き離して土方に嫌ってもらわないと、俺が諦めきれないから。
「それに、土方くん今度から京都に出張なんだろ?」
「おまっ、何でそれを…」
「万事屋なんて職業やってると色々と情報網ができちゃうんだよねー、これが。」
これは嘘。本当は沖田くんから聞いた事。何でも、高杉達の鬼兵隊の動向が活発化してきたから真選組が出向くんだとか。