僕のとなりに君はいない。
□2.打ち合わせ
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ビルが見えた途端更にはやく走った。
必死で走った。
渋谷ビルに着いたら、次はどの部屋かを探す。
俺はある張り紙が張られているドアに目を向ける。
〈新月9ドラマ打ち合わせ室〉
見つけた!!
バンッ
勢いよく扉を開けた。
「ハァ…す…すいません、遅れました」
息を整えながら、なんとか謝る。
遅刻なんて…なかなか許してもらえないだろうな。
半ば説教されるのを覚悟した時だった。
「どうしたんだ、木下くん。
打ち合わせまでまだ30分あるよ」
プロデューサーらしき男性が、不思議そうに言った。
「…えっ??」
?≠ナいっぱいになる。
「9時30分から、打ち合わせじゃなかったでしたっけ?」
「あぁ、ビルが変更されたから、時間も変わったんだ。マネージャーからメールでこなかったか?」
「ちょっと、失礼します」
ケータイを見てみると、ビル変更の下に時間も変更と書いてあった。
俺はバカだ。
ちゃんと見てれば、こんな走らなくてもよかったのに…!
「そうなんですか!うっかりしてました」
苦笑いを浮かべる。
ふと部屋にいる人を見渡すと、
監督とプロデューサーの他に若い女が座っていた。
あの女優だ。
今日は、主人公とヒロインだけが集まる。
俺はAYAという女優の横に座り、とりあえず挨拶をしてみる。
「初めまして、木下晃です」
皆悪い気はしなかった満面の営業スマイルで話す。
しかし彼女は俺をじーっと見て、何も言ってこない。
「あの、どうかしました?」
沈黙に耐えられず聞いてみる。
「その作り笑い、やめたら?」
いきなり彼女が言った。
「え!?そんな…作ってませんけど」
初めて見破られた。
少し動揺する。
なんだ、この女は。
「ほら!今の顔だよ!
無理して笑わなくっていいって」
「そうですか…」
ペースについていけねえ…。
「木下くんって、見かけによらずドジなんだね。時間を間違えるなんて」
にやにやしながらからかわれた。
「しょうがないでしょ。時計がずれてたんだから」
こいつには敬語を使わないで良さそうだ。
「ふーん。いい遅れたけど、私はAYA!どうぞよろしく」
「よろしく」
この女、笑顔で単刀直入に聞きすぎだろ。
最初からタメ口だし。
でも、そこらにいる女よりはましか。
予想外の性格だったAYAとの撮影は、一体どんな風になるのだろう。
彼女に少し興味を持ち始めていた。
謎に包まれている彼女のことを、知りたいと思った。
この気持ちがなんなのかは、俺は分からなかった。